話題の一冊! 著者に聞く

長い時を経て継承されたものを紡ぐ人たち

 日本に昔から伝わる伝統の文化、技術、食、慣習、考え方——。そのすべてが今もそのまま継承され、私たちの生活に根付いているわけではなく、なかには廃れてしまったものや今は極一部の人にしか知られていないものもあります。

 今回ご紹介する『Mirai Stories: Crafting the Future from Centuries Past』は、英語と日本語の二カ国語で書かれた本。伝統を継承しつつ、それを現在に沿う形に変化させながら活かしている10人の日本人を紹介しています。同書を執筆された大野拓未さんにお話を伺いました。

『Mirai Stories』を通して伝えたいこと

Mirai Stories: Crafting the Future from Centuries Past  $16.95 (Chin Music Press出版)

Q:アメリカ西海岸の都市シアトルに暮らし、シアトル日本語情報サイト「ジャングルシティ」を長年運営されていらっしゃる大野さんですが、書籍の執筆は初めて。しかも今の日本のことを題材にされていますが、この本を書こうと思ったきっかけは何ですか?

 実はこの本を企画したのは10年も前なんです。私以外に2名の社会起業家の方々にも取材を分担していただき、個々の取材も原稿も7年前に完成していましたが、コロナ禍や様々な壁を経てようやく今年4月にシアトルの小さな出版社から発売されました。

 きっかけは当時、私の周囲で起きた出来事と、その頃に素晴らしい人たちとの出会いがあったこと。日本酒の製造者や自然農園を経営されている方など、昔からのものを継承しつつ、それを今の状況や環境に適応させ改善を重ねながら、さらに未来へ繋げようとしている日本人がいることを海外にも紹介したいと思ったのです。

 この本で紹介させていただいた方々は、意義のあることやミッションを背負って生き生きと仕事をしていらっしゃる。私から見ると異次元的にすごい人たちなので、世界に紹介したいという思いだけでなく、こうして自分の好きなことをやって頑張れる方々から話を聞いて、私自身が元気をもらいたかったのもあります。希望を抱きたかったから、とも言えるかもしれません。

Q:10人の人選では何を最も大事にされたのですか?

 酒造り、自然農園、海藻の養殖、和菓子、書道家、伝統野菜づくりなど様々なお仕事をされている方々を紹介させていただきましたが、どの方も独自の視点をお持ちです。そして、継承した伝統を尊重しつつ、さらに先へ繋げていけるよう改善しながら、今という時代に取り込んでいます。今を生きる自分たちにできることを適応させ、さらにそれを持続可能にしようとしている方を選ばせていただきました。

Q:最初から英語で出版しようと決めていたのですか?

 はい、最初は英語だけで出版する予定でしたが、せっかくなので日本語もつけようということになり、結果的に前半は英語、後半は日本語という構成の二カ国語の本になりました。

Q:この本を通して読者に最も伝えたいことは何ですか?

 「こんなに大切なことをやっている日本人がいる」「昔から続いていることをこんなふうに変化させて今に息づかせている日本人がいる」ということを知っていただきたいですね。そして、ひとりひとりのストーリーを通して、人間の素晴らしさを感じてもらえたら嬉しいです。

シアトルの日本語情報サイト「ジャングルシティー」のこれから

Q:大野さんが運営されているシアトル日本語情報サイト「ジャングルシティ」は今年で26年目。情報サイトをゼロから立ち上げて育て、長年継続させるのは並大抵の努力ではないと思いますが、その原動力は何ですか?

 私の原動力は「誰かの役に立ちたい」ということだと思います。このサイトを立ち上げたのは純粋にシアトルが好きで、「ここの良さを日本にも伝えたい」という気持ちから。当時はまだ20代でしたから、シアトル生活の中で知らないことも多く、情報を探すために時間とお金を無駄にする経験を自分がしていたので「それが払拭できるサイトを作ろう」と思ったことがベースなんです。だから今でも「役に立ちたい」という思いは変わりません。そのモチベーションがなければ、こんなに長く続けられなかったかもしれません(笑)。

Q:昨年末にサイトを大々的にリニューアルをされた理由は?

 見た目の更新ですね。情報量が多いので、その分、文字も多かったのですが、リニューアルでは写真を増やしました。シアトルで生活している方々にも、旅行でいらっしゃる方々にも見ていただきやすくなったと思います。

Q:今後さらに力を入れていきたいことは何ですか?

 情報サイトなので日々安定して更新し続けることが大前提です。あとはもっとわかりやすく改善していくことですね。これまでもシアトル地域に住むたくさんの方々のインタビュー記事を掲載していますが、今後はアメリカで活躍している日本人の方々をもっと紹介できたらと思っています。

 「ジャングルシティのおかげで、そのことを知ることができた」等と言って頂けることが何より嬉しいので、これからもたくさんの方々にそう言っていただけるよう頑張ります。

著者プロフィール:大野拓未さん

大野拓未
Spring Forward, LLC代表、ジャングルシティ運営

 兵庫県神戸市生まれ。オーストラリアでの高校留学を経て、1990年に渡米。シアトル大学・大学院で経済学学士号・修士号を取得後、輸入業社に就職し、OEM営業を担当。自転車業界のトレンドセッターらと仕事をすることで得た体験から、自分も熱い思いを持てる仕事を見つけたいという気持ちに駆られ、1998年に独立して起業。当時、日本ではほとんど知られていなかったワシントン州とシアトルの素晴らしさを日本語で伝える情報ポータルサイト 『ジャングルシティ』 を開設。企業サイト構築やメディア・コーディネーション業務と並行して同サイトの運営を続け、シアトル最大の日本語情報サイトに成長させ、昨年25周年を迎えた。シアトルでの生活や滞在に役立つ情報サイトとしてだけでなく、イベントやプロジェクトを通じて人と人、人と場所をつなぐ役割を担っている。

ジャングルシティ:www.junglecity.com
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