九州出身で英国在住歴23年、42歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと8年。果たしてそれは見つかるのか?!
日本里帰りで緊急入院
この夏、家族で日本に里帰り中に次男が細菌性腸炎にかかり、予定していた帰国日のわずか2日前に入院した。まさか日本で病院にお世話になるとは夢にも思わず、家族みんなが不安になった。5泊6日の入院生活が必要だと言われ、夫と長男だけ先にイギリスに帰国し、私は次男に付き添った。
不安が募る中、私はさらに大きな驚きに直面した。私は日本人だが、今は日本に住民票がないので日本の保険には加入できない。だから海外旅行保険に加入していたのだが、それでもなんと、医療費は合計67万円! 日本の保険証がないと医療費は200%負担だと知って驚愕した(その病院ではそうだったという話)。病院の受付でこの金額を伝えられたとき、金額の高さに驚きすぎて言葉が出なかった。幸い先にイギリスに帰国した夫がすぐに家族の貯金から送金してくれたので支払えたが、もしも貯金がなかったら支払えなかった。万が一支払えなかったら次男はどうなっていたのだろう? それを考えただけで冷や汗が出た。
日本の病院の手厚いサービス
日本に住んでいると、外国人や海外在住の日本人の医療費負担額を知る機会はほとんどないだろう。旅行者も旅先での楽しいことは考えるだろうが、病気になるとか入院することなんて想像しないのが普通だと思う。だから今回の経験で海外での医療費は大きなリスクだということが身に染みた。
とはいえ、病院でのケアには感謝しかない。次男と私が入院したこども病院は、まるでホテルのような環境だった。個室にはトイレ、シャワー、洗面所、冷蔵庫、ソファーベッドまで完備。栄養も美味しさも考えて作られた食事。回復し始めてからは次男は毎回美味しそうに食べていたし、何よりもスタッフの方々が温かかった。特に感動したのは、夜勤の看護師さんが次男の点滴を固定するテープにポケモンのイラストを描いてくれたことだ。病気で不安になっている子どもたちを少しでも元気づけたいという心配り。患者や家族に大きな安心感を与えてくれて、本当にありがたかった。医療の現場で働く人々の優しさが患者を救うことを痛感した。
イギリスの医療制度の良さ悪さ
私はイギリスに23年住んでいて、2回の出産ではイギリスの病院で緊急帝王切開を経験している。イギリスでは住民の医療費は基本的に無料だ。英国の国民保健サービスNHSはすべて税金で賄われているため、特に緊急時には全てが優先され、最高の治療を受けることができる。一度目の出産時は子どもも私も容態が悪く、10日間も入院することになったが、無料だったことには本当に助けられた。
ただ無料なだけあって、緊急性の低い症状に対しては病院での検査までに1年以上待たされることもざらだ。また、精神的なケアという点では日本の方が圧倒的に上だと感じる。私個人の経験だがイギリスでの入院中、食事を運んでくれるスタッフがいつもイライラしていて配膳の際に鬱憤がこちらに向けられることもあり、食事のたびに緊張して過ごしていた。病院食はトースト、シリアル、ヨーグルトなど質素で、弱った心に力を与えてくれるものではなかったし、看護側スタッフの感情に対してこちらが気を遣いすぎて精神的に心がすり減ることも少なくなかった。ただ、あくまでこれは私の個人的な体験だ(もちろん素晴らしい精神的サポートやケアを体験した友達もたくさんいる)。
ちなみにNHSで働く看護師やスタッフは大変な仕事に反比例するように低賃金である場合が多く、生活の厳しさから大規模なデモ活動などをして英国政府に訴えかけている。なので常にイライラしたり、患者への心配りが少なくてもそれはしょうがないと思う。
備えあれば憂いなし
「保険の重要性」は今回の日本への里帰りの大きな教訓だ。海外で何かが起こる可能性は常にある。特に日本やアメリカのように医療費が高額になる国では、事前にしっかりとした旅行保険に加入しておくことが本当に大切だと実感した。
だが、私が入った旅行保険は現地で支払った額を申請して審査のあとで返ってくるというものなので、今回の高額な医療費や急遽変更した飛行機代がカバーされるかは、まだわからない(汗)。もし海外保険が効かなかった場合の痛手は相当大きなものになるだろう。
海外での予想外の出来事に備えて万全の準備をしておくことがいかに大切かを思い知った今回の日本への里帰り。海外在住者のみなさん、日本への里帰りの際はどうぞお気をつけて。備えあれば憂いなしです!