会社員とフリーランスの良さ悪さ(アメリカ編)

会社員になって早一年

 こんにちは、ランサムはなです。おかげさまで社内通訳者になって無事に1周年を迎えることができました。約30年もフリーランス翻訳者を続けてきた私にとって、50代も後半になってから会社員生活を始めるということは、正直なところ大きな挑戦でした。

 実際、会社員生活を始めてからはびっくりすることの連続でした。そこで今回はアメリカにおける会社員とフリーランス(個人事業主)の良いところと悪いところを振り返ってみたいと思います。

安定収入・有給休暇・医療保険 手厚い待遇の会社員

 長年フリーランス(個人事業主)をやってきた後で会社員として1年勤務してみて、つくづく思うのは「会社員は本当に守られているなあ」ということです。

 感激したのは会社員には有給休暇があり、その期間中は働かなくてもお給料がいただけること。長年、会社員として働いている方には当たり前かもしれませんが、私にとっては信じられないほど恵まれたことに思えました。

 フリーランス翻訳者は「時は金なり」。1分でも長く、1語でも多く翻訳していた方がお金になるし、逆に仕事を休むと途端に収入が途絶えるので、休暇中もどこか心が休まらない部分があります。休み明けに次の仕事が来る保証もないため、休みを取ったら取ったで、次が心配なのです。仕事がなくなる心配をせずに休みを満喫できるなんて、会社員はなんと恵まれているのだろうと思いました。

 病気休暇も同じです。フリーランスには病気休暇がなく、長期療養などになると事業の存続にも関わるため、「絶対に病気になってはいけない」という強い緊張感と常に隣り合わせです。その一方、会社員には様々な種類の病気休暇や手当てがあり、休暇中もお給料の一部が貰える場合もあります。会社員は病気休暇だけでなく、医療保険も充実しています。フリーランスの時は、我が家は夫婦2人で月額1000ドル以上(約15万円以上)もの医療保険代を個人負担しなければなりませんでしたが(条件や金額は年齢・地域・プランなどによって異なる)、会社員ならば会社の団体医療保険に加入でき、しかも半額(会社によっては全額)は会社が負担してくれるので月々の自己負担額を抑えられます。万一、病気にかかった時に時間的にも金銭的にも頼れる場所があるというのは、私にとっては信じられない驚きでした。

 もちろん個人事業主が医療保険を自己負担しなければいけないのは、日本もアメリカも同じですが、なにしろアメリカは医療費が桁外れに高額になりがちです。医療保険に加入していても年間の自己負担金の上限に達するまでは数十万円は自腹を切らなければいけませんし、保険適用外の治療を受けたら数百万〜数千万円の請求が来ることもざらです。救急車を呼ぶのも日本のように無料ではなく、1200~2000ドル(約18万円〜30万円)の高額な請求をされるので、命の危険を感じても救急車を呼ばない人も大勢います。

 手厚い福利厚生が揃っている会社員生活。自分が長年続けてきたフリーランス生活がいかに綱渡りで、リスクの大きいものであったかを改めて実感しました。

何の保証もないフリーランスを長年続けた理由

 それだけリスクと負担の大きいフリーランス生活を、なぜあえて続けてきたのかというと、前回のコラムにも書いた通り、私は一年の半分を日本で、もう半分をアメリカで暮らすという二拠点生活を送ってきたからです。

 フリーランスであれば、オフシーズンの安い時期に飛行機の切符を買って、数カ月単位で日本に滞在することも可能ですが、会社勤めをしていたら半年を日本で、半年をアメリカで過ごすなどということはできません。フリーランスは完全実力主義の世界なので、個人としての実力を磨き続けることが生き残りにつながります。翻訳者・通訳者としての実力をキープするためにも、両国を行き来して言葉の変化についていくことが大切だと思いました。

 フリーランスを続けたもうひとつの理由は、煩わしい人間関係のしがらみが苦手だったからです。大学を卒業した頃から社会での上下関係や男女の役割分担をうまくこなせる自信がなく、「自分は会社員には向いていない」と思い込んでいました。人間関係で消耗するぐらいなら、マイペースで一人でできて、成果物だけで評価されるフリーランス翻訳者の方が性に合っていると思えたのです。

 最後の理由は、平均的な会社員としての社内翻訳者よりも収入が多かったこと。多くの社内翻訳者がフリーランスとして独立することを夢見て努力を続ける中、フリーランスとして一定の額を稼げるようになってから社内翻訳者になるのはキャリア的に逆行するように思え、気が進みませんでした。今回は通訳というセカンドキャリアで会社に入ったので、その葛藤はありませんでした。

自由の代償は大きい

 会社員とフリーランスの両方を経験してしみじみ思うのは、「自由の代償は大きい」ということです。

 誰もが「自由」に憧れますが、「自由」というのは好き勝手に何をやっても良いという意味ではなく、守ってくれる人や存在がないということ。病気や事故など想定外のことが起きても寄りかかる場所はありません。なんとか自分で解決策を見つけて、先に進むのです。

 ただ、自分の人生の舵取りをしているという当事者意識は強まるので、生きているという実感は味わえますし、強く成長した自分に出会えるというメリットはあるかもしれません。自分は長年フリーランスで来たことを後悔していませんが、誰にでも気軽に勧められる選択肢ではないな、と改めて思いました。

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「サラリーマン」は和製英語
多くの方がご存知かもしれませんが、日本語の「サラリーマン」に該当する英語は、アメリカではほとんど耳にしません。会社員は「Company employee」、管理職と区別するために「Individual contributor」などと呼ぶこともあります。

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