【カリフォルニアの隠れ家バー便り】
世界中からチャンスを求めて移住者がやってくる米カリフォルニア。人種の坩堝の中で生きる様々な人たちが、ふらりと訪れる小さなバーで働く日本人バーテンダーが、カウンター越しに耳にしたリアルなアメリカをつぶやきます。
今日のお客様
医療機器メーカーにお勤めの26歳のプリアさん(仮名)。厳粛な両親のもと、清く正しく育ったインド系アメリカ人。24歳になるまで誰とも付き合ったことがなく、彼が欲しいと思ったこともなかったそうですが、2年前に出会いが。この日は結婚式を間近に控え、親友とご来店。24年間も恋愛には興味がなかったプリアさんが、たった一年半のお付き合いでゴールインに至ったちょっと型破りなスピード恋愛の行程を楽しそうにシェアしてくれました。
サンプルとして選んだ人から連絡が
今から2年前、20代半ばにして「おつきあい歴ゼロ」だったプリアさんは、特に人見知りが激しいとか、とても大人しい性格というわけでもないのに、それまで誰とも一度もデートをしたことがなく、友人たちにからかわれることもあったそうです。それでも本人は彼がいないことを気にもしていなかったとか。そんなある日、親友(この日、プリアさんと一緒にご来店)が「社会勉強よ」と、プリアさんのスマホにマッチングアプリをダウンロード。プロフィールも親友が作ってくれて、お相手探しが「半ば無理やり始まった」そうです。
その時、親友にアプリの使い方を教えてもらいながら「まあこの人を例にするとしたら……」という軽いノリで、ちょっと良さげな男性を選んでみたら、間もなくその男性から連絡が来て、アプリを通しての会話が始まったそうです。
「複数の人とコミュニケーションを取るのは大変だから、とりあえず彼一人に絞った」というプリアさん。この時点で、前回のこのコラム『アメリカの恋愛5ステップ』で紹介したルールから逸脱していたので、「お付き合いが正式に始まるまで、何人かの人とカジュアルにコニュニケーション取るのが最近のやり方では?」と聞いてみると、「忙しいから無駄な労力と時間はかけたくなかった」とのご回答。自分の時間を大切にするプリアさんは何事も効率的に物事を進めたい性格だそうです。
初デートで投げた衝撃の3質問
コミュニケーションを取り始めてまもなくして、初デート。この初デートのとき、時間を無駄にしたくないプリアさんは、初めて会う相手に「3つの質問」を用意して会いにいったそう。しかも、この3つの質問にひとつでも「NO」という答えがあれば、デートはその場で終了と決めていたと言うのです。その気になる質問は以下の3つ。
質問ひとつ目。「結婚するまで待てますか?」(なんと!)
あまりにも大胆すぎる質問に驚いてしまい、「初対面の男性とのデートで聞いた第一問目がそれだったんですか?」と確かめると、「これは私にとって一番重要なポイントで絶対に譲れなかったから、最初に聞いたの」と、プリアさん。たとえ彼が超ハンサムのお金持ちであっても、この回答が「NO」だったら将来を共にすることはあり得ないと決めていれば、後になってお互いにとって「期待はずれ」や「仕方なく妥協した」というような気分にはならず、言ってみれば傷心を避けつつ、時短にもなると。なるほど……(笑)。
ただ、「年収はいくら以上」とか、「タバコはだめ」とか、「宗教や信仰」など結婚するにあたって様々な条件がある中で、プリアさんにとってはこれが一番大事なポイントだということは微笑ましいとも言えるかも。とはいえ初デートの開口一番がこれとは、その勇気に脱帽しました。
無駄のないおつきあい
最初の質問に驚いたのは私だけでなく、きっとその彼も驚いたはず。それでも彼の答えは「Y E S」だったそうで、プリアさんは次の質問をしたそうです。
質問2つ目。「付き合い始めて半年以内に、結婚するか別れるかを決められるか?」
「半年では短いのでは?」と聞くと「半年間も真剣に付き合えば見極められる」というのがプリアさんのロジック。
立て続けに質問3つ目。「つきあいを続行すると決めたら婚約したということ。そのときから一年以内に結婚できるか?」
初デートで婚約と結婚の話をしたという彼女の突拍子のない話にますます驚いてしまいましたが、プリアさんはそれが当たり前のことのような口調で、「時間を無駄にすることが一番嫌いなの。だからダラダラ長い交際期間や婚約期間はいらない」と説明していました。
プリアさんの大胆さにも驚きますが、この質問の全てに「Y E S」と答えた彼もなかなかの強者。まさに出会うべきして出会った宿命のカップル誕生です。実際に初デートから半年で婚約し、そこから結婚の準備を始め、結婚式は公約通り婚約からちょうど12カ月目に執り行われる予定だそう。
プリアさんのポリシー
アプリ主流の出会いでは「漁場が広くなったので、釣れる魚の種類も数も豊富になった」と前回のコラムで書いたのですが、漁場が広くなっても自分の欲しい魚が最初に釣れることもある、という例がプリアさん流の恋愛でしょう。
効率が良すぎて、わちゃわちゃした楽しい恋愛の様子が感じられない気もしたのですが、目の前で語っているプリアさんを見ていると、きっと彼女がやりたい事や行きたいところはちゃんと押さえた効率よい楽しいデートを短期間でたくさんしたのでしょう。
彼女の場合はなにより己をよく知っているし、相手に何を求めているかもしっかりわかっていました。ただ、こだわりがここまで強いと「理想の相手に巡り会うのは不可能」と、いつかは妥協してしまうこともあるかもしれませんが、少なくともプリアさんのポリシーなら長く付き合った末に傷心する恋愛に対するトラウマは避けられそうです。
アプリの使い方を練習するためのサンプルとして選んだ男性と結婚が秒読み。デート歴ゼロだった女性が、よくこれほど大胆かつ華麗に18カ月で結婚までたどり着いたものだと感心してしまいました。
もう一つ忘れてはいけないことは「持つべきものは良き友達」。アプリを設定してくれたその親友は、もうすぐ結婚するプリヤさんの門出を祝してテキーラショットをやりたがっていましたが(笑)、初めてバーに飲みに来たプリアさんには、かなり飲みやすくしたパロマをお出ししました。潔い彼女にぴったりのさっぱりとしたお酒で、カクテル・バージンのプリアさんにも気に入ってもらえたようです。
今月のカクテル:パロマ
メキシコという国を代表するカクテルとも言われるパロマ。メキシコと言えばマルガリータが有名ですが、こちらの方がカジュアルに好まれているそうです。使用するグレープフルーツのソーダは、Jarritos (ハリトス)かSquirt(スクァート)が定番ですが、日本で手に入らなければグレープフルーツジュースとソーダ水を代用して。友人のメキシコ人バーテンダーは塩を直接カクテルに入れますが、お好みでスノースタイルしても、省いてもO Kです。さらに友人のレシピではタマリンドペーストをグラスの縁に塗って甘酸っぱさを増します。タマリンドはあまり馴染みがないでしょうが、万が一どこかで遭遇したら試してみてください。