熟年たちのスピード恋愛
バーテンダー・トーク

【カリフォルニアの隠れ家バー便り】
世界中からチャンスを求めて移住者がやってくる米カリフォルニア。人種の坩堝の中で生きる様々な人たちが、ふらりと訪れる小さなバーで働く日本人バーテンダーが、カウンター越しに耳にしたリアルなアメリカをつぶやきます。

今日のお客様

 昨年離婚の調停を終え、電子機器メーカーから退職し、「これからは一人で悠々自適に過ごしたいと」言っていた常連のビルさん(仮名、66歳)。そんな彼が最近、彼女ができたと少し恥ずかしそうに打ち明けてくれました。しばらく一人でいたいと言っていたのに、かなり素早い展開。彼自身も驚いている様子を見せながらも60代の男性の恋愛話を披露してくれました。

意外な出会いの場とは?

 ビルさんがご来店された数日前、たまに顔を見せてくださる40代の金髪美人のお客様から、意外な場所が「出会いの場」になっているという話を伺いました。彼女曰く「出会いを求める女性は、ホームディポに行くべき」だと言うのです。

 このホームディポ(Home Depot)というのは、アメリカに住んでいれば誰もがきっと一度は行ったことある大手のホームセンター。アメリカでは自分で家を修理したりリノベする人が多いので一般にも広く利用されており、DIYやガーデニングが趣味な人はもちろん、建設業やインテリア業などの業者も利用する巨大なホームセンターです。

 「女性がホームディポでちょっと困った素振りをすると、お店の人に限らず、必ず誰かが助けてくれようとして声をかけてくる。私も何度か経験したわ」というのが、そのお客様の話。つまり、ホームディポでナンパされる確率が高いという話ですが、「でも、それはあなたが美人だからでしょう」と思いながら、話半分で相槌を打っていました。

 ところが、常連のビルさんの出会いも、なんとこのホームディポだったのです。

こんなところで逆ナン?

 ビルさんは大きな家に一人暮らし。リタイアーして時間もあるので、キッチンやバスルームのリフォームを趣味にしています。以前から大工仕事や修理が好きなので、なるべく自分でやると決めてホームディポに通う毎日だそう。

 ある日、いつものように店で必要な部品を物色していると、見知らぬ女性が近寄ってきて、唐突に「このスプリンクラーヘッド良いと思う?」と話しかけてきたというのです。その部品はビルさん的にはお勧めの商品ではなかったので、別な商品を探して優良なポイントをその女性に説明してあげると、女性は大喜び。

 店員でもないのにとても親切で知識が豊富なビルさんに好感を持った女性は「あなた、独身?」と、唐突な質問をしてきたとか。ビルさんは正直に「ええ、そうですが……?」と答えると、「それなら、あなたの電話番号を教えてくれないかしら? あ、私は結婚しているの。あなたを独り者の親友にぜひ紹介したいのだけど、良いかしら?」と聞いてきたそうです。

恋愛に繋がる出会いはタイミング

 「あなたを親友に紹介しても良いか?」と言うフレーズを最高の褒め言葉と受け取ったビルさんは、声をかけてきたその女性もフレンドリーだし、その人の親友ならば会ってみても損はないだろうと直感したとか。

 その日の午後、早速ホームディポで出会った女性から連絡があり、翌日には彼女の親友と近所のスターバックスで待ち合わせ。すごいスピード感です、笑。

 ビルさんは奥様に病気で先立たれ、その寂しさから勢いで結婚した2人目の奥さんとはうまくいかず、短期間の結婚生活を経て昨年離婚したばかり。一筋縄ではいかなかった離婚調停がやっと落ち着いたところだったので、誰かとお付き合いを始めるつもりはさらさらなかったそうです。でも、このまま余生を一人で過ごすつもりもないので、出会いのチャンスを逃すのはもったいないというのが本音。「どうせ暇だし、断る理由はない。何よりも出会いはタイミングだ」と思い、好奇心満々でスターバックスに向かったそうです。

熟年にはそれほど時間がない

 早めにスターバックスに到着し、2人分のコーヒーを買って待っていると、ビルさんと同世代の女性が「長く待ちました?」と向かいの席に腰を下ろしたそうです。容姿や声の第一印象はかなりタイプだったそう(笑)。

 「友人から突然声をかけられて驚いたでしょう? 彼女いつも私のことを心配していて、常にアンテナを張ってくれているのよ」と、その女性が言うので、「確かに少し驚きはしたけれど、正直嬉しかったですよ」とビルさんが答え、二人の会話は調子よく弾んだそうです。

 小一時間ほどが過ぎたところで、ビルさんが「どうします? 付き合いますか?」と単刀直入に切り出したとか。すると彼女も、「Let’s do it!(そうしましょう!)」と瞬時にノリの良い返事で、前日のホームディポでの出来事から約24時間で新しいカップルが誕生したそうです。

 「気に入ったらすぐに行動しないと。余生を楽しむ時間は若者のようにたくさんあるわけじゃないからね」というビルさん。確かにビルさんが言うように、余生を一人で過ごすつもりがないなら、早めに出会うに越したことはありません。「この歳になって」と言うような自制する気持ちや恥ずかしさは捨てて、積極的に外に出ていく行動力がチャンス掴むのだろうなと思いました。

 そして、前回のこのコラムでも書きましたが、「持つべきものは良い友達」です。女性にとって、いつでも気に留めていてくれる友達や、自分のために人肌脱いでくれる友達。そんな素敵な友達が周りにいることも鍵となりそう。でも、もし人肌脱いでくれる友達がいなかったとしても、試しにホームセンターに通ってみたら、ビルさんのような親切な男性と出会う可能性もあるかも知れませんよ。

 60代で彼女を見つけたビルさんは多趣味で、自宅でビールも作っているそうです。うちのお店でもいつもビールを頼まれるビルさんですが、この日はその彼女に作ってあげられるように、ビールカクテルをご紹介しました。二人で楽しめることがもうひとつ増えるかな。

今月のカクテル:ラゲリータ

 名前から想像できるかもしれませんが、これはラガービールとマルガリータを混ぜたカクテルです。外は寒くてもビーチにいるような気分にしてくれる爽やかなカクテルで、ポイントはライトなラガーを使うこと。個人的にはモデロが合うと思いますが、コロナなどでも良いでしょう。IPAだと苦すぎるし、スタウトなどの黒ビールは別のフレーバーが混じるうえ、色が綺麗になりません。苦味を調節する場合はシンプルシロップを足してみてください。

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