子どもと一緒に遊んでみて、気づいたこと

子どもと過ごす時間を作るためには

 ギャン泣きしてしまった初めての我が家での「お泊り」以降、太郎くんの「1泊2日のお泊り」は、全部で3回ありました。児童養護施設で何か行事がある週末はそれを優先して、それ以外の週末は我が家で過ごしました。土曜日の午前中に私たちが施設にお迎えに行き、日曜日の夕方に送っていくというスケジュールでした。

 太郎くんと我が家で過ごすとき、彼がひとりで遊ぶということはほぼゼロに近く、私か夫、もしくは二人一緒に太郎くんの遊び相手になります。それまで私は子どもにほとんど接したことがなかったので、子どもが遊ぶときは大人も一緒に遊ばなければならないということを考えてみたこともありませんでした。

 「一緒に遊びたくない」のではなく、「一緒に過ごすための時間調整の必要性」に気づいていなかった、のです。フルタイムで仕事をしていた当時の私は、休日には買い物や掃除など必要な家事を優先したい気持ちが大きく、正直「太郎くんだけにかまっていられない」と思ったこともありました。太郎くんと遊ぶのは夫に任せて、私は家事をやればいいと考えたこともありましたが、そうすると太郎くんに「お母さんは遊んでくれない」というレッテルを張られてしまうかも知れない……という心配もありました。そもそもこんな大切なことに、実際に太郎くんが我が家に来るまで気づかなかったとは、何とも私らしいというか……(苦笑)。

どこへ連れていけば喜んでくれるのだろう?

 そこでいろいろ考えて、いっそのこと家で過ごすのではなく、みんなで外出する計画を立てることにしました。太郎くんが我が家に来る時は、家事や用事を後回しにして夫と二人がかりで太郎くんの遊び相手をするのですから、なにも家で過ごす必要はないわけです。

 「できれば、それほどお金がかからず、近場で、大人も子どもも楽しめる場所ってどこだろう?」とネットで探しはじめました。探しながら、自分が「子供はどういう場所なら楽しめるのか」を、ほとんどわかっていないことに気づきましたが(9話参照)、ようやく候補が見つかりました。我が家からさほど遠くない場所に、それなりの規模の動物園があったのです。入場料もお手軽だし(子どもは無料)、これなら子どもが楽しんでくれそうなので、夫にそのことを相談すると、いいアイデアだと賛成してくれたので、「次のお泊まりのときに、太郎くんを連れていこう」と決まりました。

 ただ、私は自分が子どもだった頃の記憶を辿りつつ、「動物園なんて大人も楽しめるのかしら?」と少し懐疑的だったというか、あまり乗り気ではありませんでした。でも、これも「太郎くんに楽しんでもらうため」と思って、土曜日は朝から動物園に持っていくお弁当作りに精を出すことにしました。

太郎くんと一緒に動物園に行く

 迎えに行った夫と一緒に家に到着した太郎くんに、お弁当を持って動物園に行く計画を伝えると、とても喜んでくれたので、正直ホッとしました。

 道中、太郎くんだけでなく、夫も動物園をとても楽しみにしている様子で、二人が「どんな動物がいるかな」と話しているのを横で聴きながら、なんとなく私は聞き役に徹していました。

 動物園に到着。入場料は1回券と年間パスがあり、1年間で4回来園すれば元を取れる値段でした。それを見た夫が、「君と僕の年間パスを買おうよ」と言い出しましたが、動物園に来ることにそれほど気乗りではなかった私は、「私は今日が最初で最後になるかもしれないから、1回券でいい」と聞き入れず、この日は1回券を買って入場しました。

 敷地に入るとすぐ池があり、亀や鯉が泳いでいました。普段は見ることのない亀や魚の動きを何気なく見ているうちに、あまり乗り気ではなかった私も、池を観察することにだんだん興味が出てきました。そんな私の横で、「あっ、亀が動いた! わー、あの亀は小さいから、赤ちゃん亀だー」と、はしゃぐ太郎くん。そんな小さなことに一喜一憂する太郎くんのリアクションを見て、「子どもが何かを見て、そこから受け取る感覚は、こんなにも大人とは違うんだなあ」と気づかされ、どんどん楽しい気持ちになっていきました。

 園内には、動物に関する様々な知識が写真やパネルで展示された建物もあり、その展示を見て回ったときは、私の方が夫と太郎くんを待たせてしまうほど展示物に熱中してしまいました(苦笑)。痺れを切らして、「はやく次に行こうよ~」と言いながら、私の手を引っ張る太郎くん。その光景を見ていた夫は笑っていましたが、太郎くんに急かされて我に返った私は、「子どもに何かあってからでは遅いから、もっと周りに注意を払わなきゃ!」と、自分に言い聞かせた場面もありました。

子どもが大人に与える影響力って、すごい

 園内を三人で飽きずに見て回りました。飼育員がペンギンに餌やりをする様子を見ることもできて、太郎くんは大興奮。それを見たあとで、「私たち人間もお昼ご飯にしましょう」と、ピクニックテーブルを探して、手作りのお弁当を広げました。それは、私にとって初めて「家族」のために作ったお弁当。気持ちの良い天気の中、みんなでお弁当を食べて、「美味しい!」という嬉しいコメントまでもらった私は、ますます動物園が好きになっていきました(笑)。

 午後も様々な動物を三人で見て歩きました。園内にはたくさんの家族連れがいましたが、私たち三人も周りから見れば、何の疑いもない「普通の家族」に見えるだろうなと思って、ひとりでクスッと笑ってしまいました。そして、動物園の敷地を出たところで、私は立ち止まって振り返り、「動物園、いいな。次回は年間パスを買うぞ」と心に決めたのでした。

 生活の中に子どもがいなければ、わざわざ動物園に来ることなんてなかったでしょうが、子どもがいることで、これまでに自分が学んだり経験したことを再確認したり、子ども目線で物事を考えることがガゼンと増えました。

 私が子どもだったのは、もう20数年前のこと。時代と共に変化しているものもあれば、全く変化していないものもありますが、太郎くんと新しい発見をしたり、懐かしい思いをしたり、様々な気付きを太郎くんから与えてもらっています。太郎くんの寝顔を見ながら、「もしかしたら、子どもの存在や影響力は、大人の想像をはるかに超えるレベルですごいかもしれない」と感じた1日になりました。

 次回は、太郎くんのお泊まり日数が、一泊から二泊になったときのお話です。お楽しみに!

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