仕事はアクティブでも、プライベートは出不精
撮影で全国を旅しているうちに、プライベートでは積極的に旅をしなくなってしまった。海外も20か国以上は行ったけれど、考えてみるとほぼ全てが仕事で、プライベートでの海外旅行は2回くらいしかしたことがない。
こういう仕事をしていると、「いろいろな場所に行けていいね」と言われるけれど、仕事で行く旅はやっぱり仕事。観光旅行では見ることのできない場所に入れたり、普通なら会えない人に会えたりしても、有名な観光地をゆっくり観て回るようなことはできない。エジプトのルクソール神殿でテロが起こった際に居合わせたこともあったし、昔は多額のロケ費を現金で持たされていたので常に緊張しながら旅したこともあった。仕事がない時はなるべく家にいたいと思ってしまうのは、そのせいかもしれない。だから、仕事ではアクティブだけれど、休みとなるとかなりのひきこもりだ。
それでも、ふと旅に出たくなる時がある。
何もかも上手くいかなくて、気分を変えたくなる時。
若い頃は、女友達に「ちょっと聞いてよー」と言って、美味しいものを食べながらワイワイ話せば気が済んだ。でも、いい歳になってくると「友達に言ってもしょうがないよなぁ」という経験値が増える。それに土日も関係ない私の仕事は、友達と時間を合わせるのもなかなか難しい。
だからなのか、長年こんな生活をするうちに「ひとり遊び」が上手くなってしまった。人と一緒に観る映画もいいけれど、ひとりでじっくり味わう映画も好きだし、ひとり飲みもわりと平気でイケる方だ。
ひとり旅の行き先は「加茂水族館」
ある日、忙しい仕事のせいでプライベートが立ちゆかなくなって、現実逃避の旅に出た。
ひとり旅の行き先に選んだのは、山形・鶴岡市にある「加茂水族館」。クラゲの展示で有名だ。テレビのドキュメンタリーを見て以来、いつか行ってみたいと思っていたのだが、「そのタイミングは今!私の荒んだ心をゆらゆら揺れるクラゲに癒して欲しい」といてもたってもいられなくなり、時刻表を調べ、東京から深夜バスに飛び乗った。
早朝に到着したので、まだ水族館は開いていなかった。そんな早くから開いていないことはわかっていたが、今日締め切りの簡単な原稿があったので、カフェで朝ごはんでも食べながら仕事をして開園を待てばいいと思っていた。だが、早朝からやっているカフェを探しても見当たらない。しかもパソコンの充電が危うい。安易に考えていた私がバカだった。東京とは違うのだ。
電源がある場所を探してやっとたどり着いたのは、マクドナルドだった。朝マックなんて何年振りだろうか。しかも旅先で……。
なんとか無事に仕事を終えて、いざ水族館へ。平日だったので家族連れは少ないと思っていたのだけれど、バスでやって来た団体客や時間だけはありそうな大学生のカップルたちが訪れていた。アシカのショーをひとりで見ていたのは、たぶん私だけだったと思う。周りを見回したが、女のひとり客はいなかった。
自分が人の目にどう映っているかはわからないが、ひとりだったので好きなだけクラゲの水槽の前でボッーとすることができた。その大きな水槽にへばりついてクラゲを見ている幼稚園児の姿にふと涙が出そうになったりもしたが(弱っていた証拠?)、それはとても良い時間だった。私にはこういう時間が必要だったのだ。
思いがけず出会った山形の「庄内弁」
山形を選んだのにも理由があった。鶴岡駅から羽越本線に乗れば、実家のある新潟市に着く。せっかくなら実家に寄って帰ろうと思っていた。
気づいたらお昼も食べていなかった。そんな時、鶴岡駅の小さな売店で見つけたのが、「駅の弁当 庄内弁」。パッケージを見て「これは絶対買いだ」と思った。こんなに郷土色に溢れた素朴な駅弁に出会うことは、なかなかない。「遊佐生まれのめじか鮭つや姫 殿様のだだ茶豆のめっこい巻き」という長い名前の、今まで見たことがないような巻きものが入っていた。紙の裏に書かれている方言も、あったかい気持ちにさせてくれた。
しばらくすると車窓から、子どもの頃に家族でよく訪れた笹川流れの海岸が見えてきた。感傷に浸りながら食べる「庄内弁」は格別だった。偶然、こんな駅弁に出会うこともあるから、ひとり旅はやめられないのだと思う。
今月の駅弁紹介:富山の寿司
富山は私がこれまでの撮影で一番多く訪れた県。最初のロケ地は、ブリで有名な富山の氷見市だった。定置網のブリ漁やホタルイカの漁船にも乗って撮影したことがある。
富山といえば「ますの寿司」で有名だが、木の桶に入った大きなサイズは駅弁には不向きだ。でも、北陸新幹線が開通して、駅弁サイズの寿司も見るようになった。私が特に好きなのは、「ぶりの寿司」。脂がのったブリの上に薄いかぶらが合わさって、あっさりと飽きずにペロリと食べられる。ますの寿司は、サービスエリアでも売っているから、見つけるとついつい買ってしまうのだ。