第18話「旅は道づれというけれど……」

東海道新幹線で隣席になった人たち

 1964年10月1日に開通した東海道新幹線。初めて東京オリンピックが開催された年。映画やドラマなどで散々見聞きした時代だが、日本中が輝かしい未来を夢見て湧きたっていたことだろう。初めてのことが始まるワクワク感を少し羨ましくも感じるが、東海道新幹線は今年で60周年を迎えた。     

 私は新幹線に乗って旅をすることが多いのだけれど、東海道新幹線だけはいつも混んでいる。東京から京都を目指す海外からの観光客が多いが、平日はそれ以上に出張のサラリーマンも多い。私も大抵仕事で利用するので同類だが、隣の席までびっしり埋まっていると駅弁を食べるのが申し訳なく感じてしまう。

 窓から流れる景色を見ながら駅弁を食べたいので、私はいつも窓側に座ることにしている。ある時、隣にスーツ姿のバリキャリ風女性が乗ってきた。「これから出張かな?」と思っていたら、彼女は駅弁をテーブルにポンと置いたあと、おもむろにビールの缶をシュポッと開けてゴクゴク飲み出したのだ。

 「うわっ、まだ午前中なのに!?」と驚いた私は、人の駅弁が気になってちらっと目を移すと、彼女が食べていたのはガッツリした「ステーキ弁当」。「これが本当の『肉食女子』だな」なんてことを思いながら、私も隣で「ちらし寿司」の駅弁をパクッと食べた。まるで一緒に旅しているかのように。

 もしかしたら、この女性は商談が上手くいって帰路に着く中、ささやかな祝杯をあげているのかも知れない。それとも、仕事で嫌なことがあって「もうやってられないわ」という焼け酒なのかしら?などと思いを巡らしてみる。「旅は道づれ」というけれど、話しかけるにはなかなか勇気がいるし、ひとりの時間も楽しみたいので空想の中だけに留めておいた。

私の駅弁は「ちらし寿司」
私の駅弁は「ちらし寿司」。隣席は「ステーキ弁当」

隣席とのパーソナル・スペースを守る

 これを書いているのも東海道新幹線の中。隣は黒人男性。シャカシャカと音楽がヘッドホンからこぼれている。「外国人のひとり旅なんて珍しいなぁ」と思ったけれど、もしかしたら日本生まれの日本育ちで、日本語ペラペラかも知れない。それとも生き別れた母を捜しに来日したのかしら……なんて、昔観た映画みたいに勝手に妄想してみる。スミマセン、隣席の女がそんなこと妄想しているなんて思ってもいないよね(苦笑)。

 偶然に隣の席になった私たちは、お互いのパーソナル・スペースを守っている。この関係性って「東京のひとり暮らしに似ているなぁ」とふと思った。干渉せずに思い思いに過ごすのが居心地いい。たまには下町のおばちゃんみたいな賑やかさも欲しくはなるのだけどね。

 旅は目的地に行って楽しむのが大前提だけれど、旅先に向かう道中のワクワク感がまた楽しい。でも、新幹線の旅はスマホをいじっている間に着いてしまうことが多いので、後悔することが度々ある。

 やはり、ローカル線に乗って、行く先々で地元の駅弁を買ってゆっくり旅するのもいいなぁ。友達とワイワイ賑やかな旅行も楽しいけれど、ひとり旅も悪くはない。駅弁の味も、旅の記憶も鮮明に残るから。

今月の駅弁:鱈めし、かきめし、貝の贔屓めし

 東京駅の駅弁屋を覗いたら、「駅弁味の陣」をやっていた。2012年から始まって今年で13回目を迎えたらしい。お客さんの投票でグランプリ「駅弁大将軍」が決まる。私も3つ買ってみた。

駅弁 味の陣 写真

 ひとつ目は、新潟直江津の駅弁「鱈めし」。赤い弁当箱に可愛らしく詰められた見た目に惹かれて買った駅弁だったけれど、第1回の「駅弁大将軍」に選ばれていた。甘辛く煮込んだタラは骨まで柔らかくて、薄く切った焼きタラコも味変になっていい。甘い干し鱈も入っていた。ご飯は昆布と錦糸卵が入った混ぜごはん。小さいので女子向きかと思っていたら、深い器で食べ応え十分! このシリーズは他にも「鮭めし」(第8回グランプリ)、「にしんめし」もあって、1位に選ばれる理由がよくわかる。

新潟直江津の駅弁「鱈めし」
新潟直江津の駅弁「鱈めし」

 2つ目は、北海道厚岸(あっけし)の「かきめし」。釧路にタンチョウヅルの撮影で滞在していた時、厚岸で「牡蠣そば」を食べた。そばが見えなくなるくらい牡蠣がのっていて、寒い季節にとても美味しかったのを憶えている。同行したカメラマンが、「もう一杯食べたい」と言い出したほどだ。厚岸と言えば、私の中ではイコール牡蠣なのだ。そんな思い出もあって選んだ駅弁だが、これがとっても美味しかった! 普段は幕の内弁当を買いがちだが、これはまた食べたくなる駅弁だった。

北海道厚岸(あっけし)の「かきめし」
北海道厚岸(あっけし)の「かきめし」

 3つ目の駅弁は北海道函館の「貝の贔屓めし」。私の大好きな「鰊みがき弁当」を作っている函館みかどの駅弁で(第16話参照)渋い掛け紙とネーミングに惹かれて買った。なぜ「贔屓」という漢字にこんなにも「貝」が使われているのかは知らないが、駅弁には北寄貝とつぶ貝、あわび、スモークした帆立も入っていた。貝づくしで「飽きるかな?」と思ったけれど、甘いきんぴらごぼうが箸休めとなって美味しく頂いた。

北海道函館の「貝の贔屓めし」
北海道函館の「貝の贔屓めし」

 旅先で郷土色豊かな駅弁を食べるのが好きだったけれど、こんな風に全国の駅弁が一同に介するのもまた格別だ。いつかまたこの駅弁たちと出会うのを楽しみに……。

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