ひとり駅弁部 第19話 女ひとり旅の誘惑

警戒された女ひとり旅 出雲編

 「女ひとり旅」。ひと昔前なら傷心を癒すための寂しいイメージがつきまとったが、今では「女性ひとり旅のおすすめ温泉宿」など、たくさんの「おひとり様特集」が溢れ、「女ひとり」は全然珍しくなくなった。

 私がプライベートで初めてひとり旅をしたのは、かれこれ20数年前……。

 あれは確か、仕事の関係で鳥取の万博を見学した帰り道。ちょっと足を伸ばして島根の出雲に行ってみようとひとり旅を決行した。

 漫画家・水木しげるさんの故郷、鳥取・境港の水木しげるロードで『ゲゲゲの鬼太郎』の銅像などをぶらぶら見てから、電車に乗って出雲大社に向かった。

 出雲大社といえば、縁結びで有名な神社だ。私の周りでも女同士の旅先に選ぶ友人は多かった。私も良縁を願っていた時期はあったので、その気持ちはよくわかる。でも、その頃の私は結婚していてご縁を望んでいたわけではなかったが、女ひとり旅というと、ちょっと不思議な感じで見られているような気がして、少し自意識過剰になっていたのを憶えている(苦笑)。

 昼食は、絶対食べようと決めていた名物の「出雲そば」。丸くて赤い漆器の三段重ねに入った蕎麦で、見た目も可愛らしい。その容器は「割子」といって、江戸時代、蕎麦を外で食べるための弁当箱として用いられたらしい。

 三段重ねの蕎麦には、確か分葱ととろろ、それに錦糸卵や海苔などがのっていたと思う。店主は私を「初めて食べる客」と即座に見抜いて、「一番上の割子に汁を入れて、その汁を二段目、三段目と上から順にかけて食べる」と教えてくれた。汁を使いまわすシステムはなかなか衝撃だったが、言われた通りのやり方で食べた。

 夜は、旅館にひとりで宿泊。仕事の出張やロケ先ではいつも1人部屋なので私は慣れていたのだが、宿の女将は女ひとり旅の私を明らかに警戒していた。夕食を部屋で気ままに楽しむつもりだったのに、女将が部屋からなかなか立ち去ろうとしない。「何の目的で出雲に来たのか?」「なぜ1人で泊まるのか?」女将はビールのお酌をしながら、私を質問攻めにした。「ははーん、さては私がこの部屋で何かしでかすんじゃないかと心配しているのね」と感じた私は、必死になって、「私は出張の帰りに寄ってみただけで、まぁまぁ楽しい人生を送っている」ということを力説した。「女のひとり旅」というだけで心配される時代もあったのだ。

旅館に泊まれば仕事がはかどる?

 コロナ禍が終息してきた3年前、家にひきこもって仕事をするのに飽き飽きしていた私は、「気分転換に旅館に泊まって仕事をしてみよう」と思い立ち、神奈川・湯河原の旅館にひとりで泊まることにした。目的は、あくまで台本を書くこと。「昭和の文豪みたいで、ちょっとカッコイイかも」なんて、浅はかな考えがあったのも否めない。1日中旅館にこもるので、部屋にお風呂もある、なるべく居心地良い旅館を選んだ。でも、それが間違いだった……。

 初めて泊まったその旅館は、ひとり旅の女性も多く、朝晩の食事も女性好みにお洒落で美味しい。ついつい、お酒もすすんでしまう。露天風呂もあって、宿の中だけで過ごしても十分楽しい。食事のあとは、大正モダン風なサロンでスイーツとお茶を楽しみながら過ごせるのだが、そこにあったのが『鬼滅の刃』の漫画全巻。ちょうどアニメの放送が話題になっていた頃で、最終回の内容を知りたくて、ついつい読んでしまった……。まぁ、連泊しているので1日目は大目に見よう。「明日は仕事するぞ!」と言い聞かせながら、夜が更けていった。

 そして、2日目。お風呂も食事も済ませて「いよいよ仕事しないとね」と思っていたら、親しい友人からの電話。ベッドの上で「ここの宿がいかに快適か」を説明しながら、楽しいおしゃべりであっという間に数時間が過ぎていき、そのまま寝てしまった……。

 結論、居心地いい宿で仕事はできない。仕事を抱えてのひとり旅はやめようと心に誓ったのであった。

今月の駅弁:山形米沢・松川弁当『牛宝弁当』/新潟・直江津『さけめし』

 新潟市で出会った呑み鉄女子が、「米沢に旅行をした時、松川弁当の出来立ての駅弁を食べて美味しかった」と言っていた。そして、「ちゃんと米沢牛を使っているんですよ」とそっと教えてくれて以来、ずっと食べたいと思っていた。

 夕方の東京駅で松川弁当の駅弁を探していたら、1つだけ残っていたので素早くゲット。掛け紙にある通り、「米沢牛」と「山形牛」の味くらべだ。普段は幕の内弁当を選びがちだが、こういうガッツリお肉の駅弁も食べたくなる。 

 カルビ焼肉の「山形牛」は、脂がのっていてやわらかい。すき焼き風牛肉煮の「米沢牛」はゴボウと甘辛く煮ていて、とても美味しかった。私好みは米沢牛だな。地方の牛肉ブランドを味わえる駅弁は嬉しい。お弁当に絶対入っていて欲しい「玉子焼き」も味変になっていい。

松川弁当 牛宝弁当の写真

 先月の当連載で紹介した『鱈めし』が美味しかったので、同じシリーズの『さけめし』を買ってみた。こちらも2010年駅弁味の陣で「駅弁大将軍」のグランプリをとったらしい。「焼鮭」は切り身ではなく、大きめにほぐしてあって食べ応えがあり、塩加減もちょうどいい。「いくらの醤油漬」も別に添えてあるから好きなように食べられる。「白瓜粕漬」も箸休めになっていい。驚いたのは、「杏シロップ漬」の上品な味! 今までで食べたお弁当の杏で一番美味しかった。この駅弁の赤い器は、もしかしたら、出雲そばのルーツである「割子」という弁当箱と同じなのかな? 次は『にしんめし』も食べてみたい。

さけめし

 今年もたくさんの駅弁にお世話になりました! 来年もまた美味しい駅弁が食べられますように。

【お知らせ】

 この連載をはじめて2年目。いろいろな駅弁を紹介させて頂きましたが、もう少し突っ込んで駅弁を取材したくなってきました。「この駅弁が生まれたきっかけは何だろう?」「あの駅弁はどんな人が作っているのかな?」駅弁が作られるところを見てみたい!という気持ちが沸々とわいてきました。

 私の本業はドキュメンタリーのディレクターなので、その様子をカメラに収めて、こちらのGo Women Goのサイトで紹介せていただきたいと思っています。取材をさせて頂ける駅弁屋さんを募集します!よろしくお願い致します!

ご興味のあるお弁当屋さん、ぜひ編集部までご連絡ください。
info@gowomengo.press
または下記のコンタクトフォームよりご連絡お待ちしております。

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