ひとり駅弁部 第21話「アマチュア感と女子の特権」

テレビ番組ディレクターなんてハッタリ?

 テレビ業界が世間を騒がせていて気持ちがザワザワしている。            

 以前見た番組で、中居正広さんと小栗旬さんが、基礎を学ばずに若くして世に出てしまったから「ずっとアマチュア感があってコンプレックスがある」という話をしていた。それを聞いて「第一線で活躍している人たちでもそう思うのかぁ」と驚いたのを憶えている。比べるのは申し訳ないが、私も同じ感覚だったから。  会社員から偶然にもこの世界に入った。同期たちのように映像の学校には行っていなかったので、「これでいいのかな?」と思いながら、手探りでディレクターという仕事をやってきた。この業界に入ったばかりの頃の「助監督時代」はいろんな監督の下に付いて学んだが、いざ自分がディレクターとして独り立ちしてからは、たくさんの失敗や後悔や小さな喜びを重ねながら、それが経験となって徐々に自信へと変わっていったのだと思う。

 でも、たとえばNHK『美の壺』を担当しているとき、出演者の草刈正雄さんに「監督!」って呼ばれたりすると、「なんだかスミマセン……」っていうような居心地の悪さを未だに感じてしまう。まぁ、所詮テレビ番組のディレクターなんて、大勢のスタッフや出演者の前ではハッタリをかまして生きているものなのだと思う(苦笑)。

アマチュアな女子の強み

 これまで私がこの仕事を続けて来られた理由のひとつに、「アマチュアの強味」があるかもしれない。

 知識がないから初めて経験するものは何でも興味津々に貪欲に学ぼうとするし、同期たちに負けないように向上心が強くなる(たぶん中居さんもそれが強味だったんじゃないかと思うのだけれど……)。

 昔は現場での技術は「盗んで覚えろ」という時代だったが、私が初めて下に付いた監督は違った。私をまず文房具屋に連れて行き、「香盤表」(撮影スケジュール)を書くための用紙を選ぶところから親切に教えてくれた。

 職人気質の照明さんも、小娘(私)が「なんでライトに青いセロハンをつけるんですか?」なんて聞いても、笑って答えを教えてくれたし、普段はぶっきらぼうな撮影助手さんも「ケーブルはこうやって巻くんだぞ」と、キレイに巻く方法を教えてくれた。

 私も薄々はわかっていたが、あの頃の「盗んで覚える世界」で私が周囲から優しく教えて貰えたのは、映像業界には少なかった「女子という特権」があったからだと思う。

 ある監督から「男には徹夜させられるけど、女にはさせられない」と言われたのを憶えているが、当時は「女性だから」という理由で免れていたことも多々あったはず。そんなことを今言ったら、男性たちから「差別だ!」って言われるかも知れないが、女子たちにそんなに優しい時代があったのだ。  でも、今やそれは遠い昔の話……。20年以上も前から女性も徹夜は当たり前。民放の人気番組の制作に参加した時は4日間徹夜で編集させられたこともあった。体力には自信があった当時の私も、さすがにあれは意識が飛んでいた。

 今だったらコンプライアンス違反だろう。昨今は長い編集期間の場合は土日は休めと言われるし、ADさんは遅くまで働いちゃいけなくなった。時代は変わったのだ。

しなの鉄道の手動ドア

 先日、仕事で長野の上田駅から「しなの鉄道」に乗った。目的地の屋代駅に着いてドアが開くのを待っていたら、一向に開かないのでボタンを探したが見当たらず、慌ててドアを手で開けて降りた。

 乗客が少ないローカル線で、切符も駅員さんに手渡しして1つだけの改札を通る。東京の満員電車に慣れてしまった私は、こういう昔ながらの駅に出会うと懐かしさと同時になんだか心が落ち着く。時代は気がつかないうちにどんどん変わっていくけれど、変わらない優しさに気づいてなんだかホッとした。

しなの鉄道 写真

今月の駅弁:東京・亀戸升本『すみだ川あさり飯』

 駅弁を買うとき、私はなるべく初めて見る駅弁を選ぶようにしているが、「また食べたくなって探してしまう駅弁」もある。

 2年前に東京駅で出会った、亀戸升本の『すみだ川あさり飯』。駅弁屋・祭が混んでいたので、仕方なく入った新幹線の改札近くの店で偶然見つけた。とても上品でシンプルな掛け紙、なかには「てづくり宣言」という紙が。「原材料の時点から保存料を使わずに職人が全て手づくりで作っております」というこだわりが書かれている。「相当、自信があるんだな」と思って食べてみたら、その年のベスト1の駅弁と言えるほど美味しかった!

 「あさり生姜飯」に江戸野菜の「亀戸大根のたまり漬」がとても合う。優しい甘さの玉子焼きも手作り感満載だ。中央のカップに入っているのは青唐辛子と米麹、有機醤油を発酵熟成させた「亀辛麹(かめからこうじ)」という薬味。つくねなどにつけて食べてもいい。

東京・亀戸升本『すみだ川あさり飯』

 あれからこの駅弁には出会っていないのだが、デパ地下で「亀戸升本」のお弁当を見つけた。気づいたのは、あの「亀辛麹」の薬味。いつかまた偶然の出会いを期待している。

デパ地下弁当 亀戸升本

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