デイサービス・ジプシーになった母
介護って何だろう?

<やまなし介護劇場>
「母、危篤」の連絡を受け、東京から故郷山梨へ飛んで帰って早10年。50代独身の著者が愛する母を介護しながら生活する日々を明るくリアルに綴ります。

退院後の高いハードル

 秋の気配など微塵も感じませんが、暦の上では立秋。秋と言えば、母が退院した季節でもあります。早いもので、もう12年前のこと。

 当時の母の介護度は「要介護3」。半身麻痺で生活全般の介助が必要だったため、退院後は朝から夕方までお世話してくれるデイサービスに通所することになりました。

 ですが母は妙にナーバスになり、デイサービスに行くことをひどく嫌がりました。「家から追い出された!」「私が邪魔なんだ!!」と言い、被害妄想がさく裂したのです(泣)。

 母は左脳を損傷したので、右脳の感覚的思考に大きく支配されてしまっていて論理的に行動できないという問題が発生していました。  なので最初の頃は、「お風呂で事故を起こしたら大変だから、安全にお風呂入れてもらいに行くだけだよ」と、なだめてから送り出す日が続きました。

 もちろんデイサービスのスタッフさん達は、こういう不穏行動をする高齢者の扱いには慣れていますから徐々に母もスタッフさんに心を許していき、一安心。とはいえ退院後も一筋縄ではない日常にため息をつくことばかりでした。

デイサービスの選び方が分からない

 デイサービスにも各施設の特色があり、どんな一日を送らせてもらえるかは施設によって違います。特にわが家は小さな田舎町にあるので、かなり選択肢が限られます。そんな環境にもかかわらず、母はこれまで実に5カ所のデイサービスにお世話になりました。施設に定着できず、施設から施設を渡り歩く母を私は「デイサービス・ジプシー」と呼んでいました。

 最初にデイサービスを決めた時は右も左も分からなかったので、地域のケアマネジャーさんに「利用者が多い、町営デイサービスをお願いします」と依頼しました。でも、町営施設は平日営業のみ。それを知って慌てて土曜日だけは民間施設を追加契約して、いきなり2カ所の施設に通所させることになってしまいました。

 倒れる前の母はとても働き者で、人のお世話になることに慣れていませんでした。しかも被害妄想が強くなった上に老人扱いされることが気に入らないのか、最初のうちは家に帰ってくると「もう行きたくない」と駄々をこねることも多く、その度に親子喧嘩に……。  私はといえば「動けなくなった自分をもう少し自覚してくれないかなぁ」とイライラし、「デイに行かなければ生活の質は悪くなるし、家で寝たきりの時間が長ければ退屈してしまうのに、なんでそれが分からないんだろう……」とモヤモヤしてばかり。母が感情優先になるのは病気のせいだと分かっていても受け止めきれず、心の中はざわつきっぱなしでした。

母がして欲しいことは何なのか?

 最初の転所は、土曜日の民間デイサービスでした。小規模なデイサービスで落ち着けるし、理学療法士の先生がマッサージをしてくれるので、体が不自由な母にはピッタリだと思ったのです。が、利用者さんが大人しい方ばかりであまり会話が弾まず、母は馴染めませんでした。

 ならば人数が多く、レクリエーションなどで賑やかなデイサービスへということで、そこよりも大規模な施設に転所しました。すると意外にも母にはそこがハマり、土曜問題はひとまず解決したのです。

 感情的になりがちな母が、たまにポツリとこぼす言葉。これが母の本音のような気がして、母がそうやって話すときには耳を傾けるようになったことが少しずつ状況を好転させていったようにも思います。

 しかし、それだけですべて解決するほど介護は甘くはありません(笑)。数年後、今度は平日に通所していた町営デイサービスに通うのを嫌がりはじめたのです。とても慣れ親しんでいた施設のはずなのに「なぜ?」と問うと、「私だけのけ者にされている」と怒り出しました。

 前述した通り、母は左脳損傷により論理的思考をするのが難しく、すぐ感情的になってしまいます。そこでデイサービスに母が怒っている原因について確認すると、「のけもの」にはされていないものの理由がわかりました。

 母が気に入っていたスタッフさんで、母の歩行訓練もボランティアでサポートしていた方が理学療法士などの資格を持っていないため、「歩行訓練のサポートをすることを禁止された」のです。リスク回避というデイサービス側の言い分は理解できますが、同じく無資格の私でも歩行訓練サポートは出来ますから、母だけでなく、そのスタッフさんの心も傷つけたような気がして淋しくなりました。

 とても良くしてくれた施設だったので心苦しかったけれど、ルールはルール。母のリハビリ欲を満たすため、理学療法士が在籍している別のデイサービスに転所しました。

 今のところ、職員さんが忙しくて充分にかまってもらえなかった日はブーブー文句を言うものの(苦笑)、通所日になると母は素直に出かけて行きます。つまるところ、母のデイサービス条件は「1、かまってくれる。2、体を動かせる」と単純でしたが、ここに至るまではかなり翻弄させられました。

またしてもジプシーに!

 そうしてしばらく平和なデイサービス・ライフを送っていたものの、今度は長らくお世話になった土曜日の施設が今年閉所することになり、ふたたび母は土曜ジプシーに。選択肢はすでに限られていましたが、新しい施設が母には大当たり! 母の承認欲求を満たしてくれるスタッフさん達に囲まれた小規模なデイサービスに毎週通っています。

 デイでの出来事を嬉しそうに話す母を見ると、自分が子どもの頃、その日あった出来事を夢中で母に話していた頃の高揚感を思い出します。

 まさに親子逆転! これも介護の醍醐味といたしましょう(笑)。

雨にも負けず、笑顔でデイサービスに向かう母

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