チョコプラとケチャップと私
イギリス人生パンク道

九州出身で英国在住歴23年、41歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと9年。果たしてそれは見つかるのか?!

お笑いコンビ、チョコレートプラネットに惹かれて

 先日、お笑いコンビのチョコレートプラネット(以下チョコプラ)が米人気TV番組「America’s Got Talent」に「TTブラザーズ」として登場した。彼らのネタが国境を越え全観客がTの字ポーズをするまで理解されて盛り上がる様子を画面越しに見ていた私は感動で笑い泣きした。

 チョコプラは日本では才能の塊のコンビとしてテレビの中で輝いている。最近だとフジテレビの番組『新しいカギ』のメンバーとして27時間テレビを成功させた。単独ライブも全国各地で開催しており、いつも完売。彼らはメインストリームで確固たる地位を確立したお笑いコンビなのだ。  私がチョコプラを最も尊敬する理由は彼らのYouTubeチャンネル『チョコレートプラネット・チャンネル』にある。海外から日本のコンテンツを観ている私にとって、このチャンネルは最も身近にある「日本のお笑いの窓口」だ。彼らはこのチャンネルを笑いの実験場、お試し場のように使い、万人受けしそうなコンテンツと同じ(もしくはそれ以上の)確率でかなりカオスなアイデアをブッこんでくる。

 例えば、どれだけアクロバティックに「オムライスにケチャップをかけることができるか」を披露する『エクストリーム・ケチャップ』。5年前に第一弾があがって以来5回ほど不定期に開催されたシリーズだが、2023年初めにその世界大会が開催されることになった。一般参加型の映像コンペだ。このカオスな大会に参加したい欲が頂点に達した私は瞬時に参戦を決めた。

『エクストリームケチャップ・ワールドカップ』に参戦

 1回戦は30秒のショート動画だ。どんなコンテンツを作れば、1回戦を突破できるだろうか? 自分が出演することも一瞬考えたが、それより旦那に主人公になってもらうことにした。

 しかし、私も旦那もアクロバットなことはひとつもできない。正直それだとコンペの趣旨からは外れてしまうが、それを承知で私はあえて「ストーリー仕立ての映像」を作ることにした。「25年前にイギリス代表として大会に出場した優勝者(配役:旦那)が、50歳になってもう一度、大会を夢見て健闘する」というストーリーだ。それがチョコプラの二人にウケ、私たちは決勝戦に進めることになった(その映像はこちら↓)。

 決勝戦を1カ月後に控えた私たち夫婦は、氷点下2度の天候の中、撮影を行った。私のアイデアに賛同してタンクトップ一丁で頑張ってくれた旦那を心から尊敬する。そして、これが私たちの決勝戦の作品だ(その映像はこちら↓)。

長年のコンプレックスを克服?!

 決勝戦のレベルは非常に高く、私たちは残念ながら優勝できなかった。だが、この大会に参加した3カ月は本当に楽しくて仕方なかった。このコンペに参加することで、私はそれまでずっと抱えていたコンプレックスをようやく克服できたからだ。

 私のコンプレックスは「私は日本ではプロと呼べない技術の作品しか作っていない」というものだった。

 18歳でイギリスにアート留学していろいろあったが、イギリスでフリーランスのデザイナーとして面白いお仕事をさせてもらい、イギリスではプロのデザイナーとして名乗ることを許されている、と思う。だが、いつも心の奥で「でも日本では……」というコンプレックスを抱えていた。私の心の中の「世間の声」が定期的に聞こえてくるのだ。「お前なんかのレベルでプロとかマジヤバいって」という笑い声が。被害妄想と言われればそれまでだが、私のデッサン力は日本の美大生に比べると恐ろしく劣るし、デジタルもちゃんと使いこなせていない。だから私はこれまで日本市場に向けた作品は一切、作ってこなかった。作品を日本で発表することに恐れしかなかったからだ。

 しかし、このコンペでは私のコンプレックスよりもチョコプラ愛が勝ち、「お二人に作品を観てほしい」という一心で制作できた。作品を観てくれたお二人がいろんな細かい要素に気づいてコメントしてくれたこと、笑ってくれたことは、私の一生の宝物となった。YouTubeのコメント欄にも視聴者から温かいコメントが届き、嬉しくて胸が熱くなった。このコンペに参加したことで新しい世界が開けた気がした。

 チョコプラが海を越えて英語で観客を沸かしたことは、私に多大な勇気と希望を与えてくれた。あんなに才能に溢れたコンビでも現状で止まらず常に新しいものに挑戦し続ける姿勢は本当にかっこいい。私も負けずに、常に行動していきたい。カオスなものも何でも、とにかく面白いと思ったらやってみて発表し続けていきたい——この『エクストリームケチャップ・ワールドカップ』に参加して、私はそう思えるようになった。

 「ケチャップで長年のコンプレックスが解消されるなんて」と思われる方もいるかもしれないが、苦手な何かを克服する「きっかけ」は人それぞれ。私にとっては、それが「ケチャップだった」という話だ。ケチャップ最高。

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