ロンドンでパンク精神溢れる創る力をもらって【前編】

絵を描きたい!という情熱がロンドンへ

 英国ロンドンのランドマークであるロンドン塔や、歴史あるケンジントン宮殿、ハンプトン宮殿の初代専属アーティストを経て、英国で劇場の舞台美術デザインやミュージックビデオ、キャラクター・デザインや絵本などを手掛けるクロスディメンショナル・マルチメディア・アーティスト、大渕園子さん

 九州生まれの九州育ち、底抜けに明るい大渕さんは、どのようにしてロンドンで活躍するアーティストになったのでしょうか。大渕さんのこれまでの軌跡を前編・後編の2回に分けてお届けします。

私はなんて狭いところで教育を受けてきたのだろう?

 子供の頃の私は絵を描くことが大好きで、漫画家になりたいなんて思っていました。中学まで田舎で育ったので、アートが好きでも選択肢がなく、福岡市内のデザイン科のある高校に通うために引っ越して、祖母の家に下宿して学校へ通ったんですよ。

 転機になったのは、高校2年のとき。ヨーロッパへの研修旅行(修学旅行)でイギリスへ立ち寄ったことです。ロンドンには1日くらいしか滞在しなかったのですが、「ここで暮らしている人は自分に責任を持ち、他人のいで立ちや表現方法、行動、信念など、誰も気にしてないない」と、強烈な印象を受けたんです。

 そのことが忘れられず、高校3年の時、ロンドンのセントマーチンズ校でイラストレーションを学ぶ2週間のコースに挑戦しました。デザインの道具や材料を全部揃え、気合を入れて学校へ行ったんですが、なんとクラスで誰1人、そんなものを持ってきた人はいなかったんですよ(笑)。集まった生徒たちは、それぞれに詩や音楽や彫刻を作り始めて。そこで私は自分が持っていたアートとかデザインという概念をめちゃくちゃにぶち壊されました(笑)。「私はなんて狭いところで、アート教育を受けてきたんだろう」って。

私がケンジントン宮殿で?!コンペ優勝で人生が変わった

 九州で高校を卒業後、ロンドンに留学してインテリア・デザインを勉強しました。私はインテリア・デザインを卒業したけれど、CAD(設計ソフト)もちゃんとできてない変わった学生だったのですが(笑)、そのときの先生が私の作品(インテリアに対するコンセプトと表現方法)を評価してくれて、なんと一番いい成績で卒業することができたんです。

 そして、卒業間際にその大学の先生に勧められ、ケンジントン宮殿やロンドン塔などをまとめるヒストリック・ロイヤル・パレスという団体のコンペに参加したら、なんと優勝してアーティスト・イン・レジデンスになれたんです。だから2005年〜2006年は、働きながら作品を作っていました。本当に自分のやりたいことをやらせてもらえている状況は楽しかったですね。あのときコンペに挑戦していなければ、今の私はないと思います。

大渕園子さんインタビュー Histric Royal Palaces 写真
Historic Royal Palaces の「Architectural Stories」

ロンドンの庶民とお城は、どう交われるのだろう?

 ケンジントン宮殿で、アーティスト・イン・レジデンスとして働いたときの作品のひとつが、この写真(上記)です。これはスノードン伯爵(マーガレット妃の元夫)の部屋で一般の人は入れないところです。この機会に、アーティストとしてケンジントン宮殿だけでなく、ロンドン塔、ハンプトン宮殿など、いろんなところを見て回れたのは英国の歴史や文化を知るためにも良かったです。

 このときは、映像のインスタレーションとレゴでお城を作り直したりしたんですけど、「普通の庶民が、お城とどうやって交わることができるんだろう」ということを考え続けていました。当時の私は政府が支給するアパートに住んでいたので、自分は庶民の生活をして、お城でアートを作っていた。だからこそ、お城とは接点のない人たちが遠足などで見る機会を得たときに、私の作品を見て自分たちとの接点を感じてもらえたら……と思って作りました。そういうパンク精神バリバリなことを自由にやらせてもらえたのは、素晴らしい経験になりましたね。

 もうひとつ特に印象に残っている作品は、2017年の個展のときに9歳だった娘をモデルに撮った写真です。『魔女の宅急便』が13歳になったら旅立つ話がありますよね? 娘が飛び立つまで「あと4年しかないんだ」と思ったら、その距離を作品として測っておきたいなと思ったんです。「旅立つ準備をするひとりの個(インディビジュアル)な人間。そして、その子は私の娘である」。人生の中で「作品にしなければいけない」と強く想ったものの、ひとつです。

大渕園子さんインタビュー  My Little Kiki写真
My Little Kiki (2017年)

「この職業についてよかった」と思うのは、どんなとき?

 作品が完成して世に出て、何かしらのリアクションが返ってきたとき。つまり、私から出たものを受け取った人から、また何かが返ってきたときというか、一周巡ってきたと感じるときです。それはものすごく嬉しい。

 だから、クリエーターとは何かと聞かれても、私は自分がクリエーターだと実感することはないんです。「生きていること自体がクリエーション」だと思っているので。クリエーターというのは、生き方だと思う。たぶん私だけじゃなく、みなさんがクリエーターだと思うし、私もそのうちのひとりというだけです。

====後編に続く====

大渕園子さん プロフィール

 グラフィックやキャラクター・デザイン、立体的な空間デザインやアニメーション、ミュージックビデオなど、2Dから4Dにわたる様々なデザインを手掛けるマルチメディア・アーティスト。

 福岡県生まれ、ロンドン在住。2001年に留学で渡英。2005年、ロンドン芸術大学卒業。ヒストリック・ロイヤル・パレスの専属アーティストとなる。シアターのステージデザインやキャラクターデザインを手掛けた後、2017年、再び学校へ戻り、ロンドン大学卒業教員免許取得。現在はアーティスト活動を行いながらカレッジでも教鞭をとっている。さらなる詳細は公式サイトへ

インスタ  https://www.instagram.com/sonoko.obuchi/
ツイッター https://twitter.com/obuchisonoko

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