Vol.6「プラダを着た悪魔」
これまで毎日、一生懸命に働いてきた私たち。そこには様々な思いがあるはずです。そこで今回は、「大変な想いをしているのは、自分だけじゃない!」と思えるような作品、「プラダを着た悪魔」(原題 The Devil Wears Prada)をご紹介しましょう。
この映画はアン・ハザウェイが演じるアンディのサクセス・ストーリー。今から16年も前の作品ですから(驚!)、多くのGWG読者さんがすでに観ていらっしゃるだろうという、王道的な作品です。監督はデビッド・フランケル。有名ファッション雑誌「Vogue」の名物編集長、アナ・ウィンターをモデルにしたカリスマ(アクマ)編集長ミランダをメリル・ストリープが演じて、その冷酷さも話題になりました。
原作は、自身も「Vogue」で働いていたローレン・ワイズバーガーの小説。映画では「Vogue」は「ランウェイ」という雑誌として描かれており、著者も数秒だけですが映画に登場しています。
そして舞台はゴージャスなファッション業界、衣装デザイナーは「Sex and the City」も手がけたパトリシア・フィールド。衣装だけで1億円もかかったとか! まずは予告編をどうぞ。
脇役のエミリー・ブラントに注目!
数ある映画の中には時に、主役を食ってしまうほどの名脇役が脚光を浴びる作品があります。今回は、とても素晴らしかった脇役のエミリー・ブラントに焦点を当てながら、作品を紹介していきたいと思います(まだ観ていらっしゃらない方はネタバレありなのでご注意を)。
この映画を改めて振り返って観てみると、ミランダ編集長のファースト・アシスタント、エミリー役を演じたエミリー・ブラントの圧倒的な存在感に驚かされます。彼女はこの映画をきっかけにブレークし、その後の勢いはご存知の通りですよね。
自分のポジションを必死になってアンディに奪われまいとするエミリーの努力には並々ならぬものがあり、本当は主役のアンディではなく、彼女が私たち働く女性に応援歌を送ってくれていたのではないか?と思ってしまうほど。役の性格はかなり酷いけれど……少しアングルを変えてご覧になって見てください。
彼女の衣装は、全編を通してほぼVivien Westwood。最初に登場するシーンの衣装は全身黒で、ウィングショルダーにごついベルト、黒いマニキュア。それが私には、ファッショナブルなダース・ベーダーのようで、彼女の性格をうまく表しているように見えました。でも格好良かった。
エミリーの仕事は、鬼編集長ミランダの出勤前にデスクの上に置いておく物から、朝のコーヒーの温度のチェック、仕事やプライベートの食事の予約などなんでもこなし、すべてに対して胃に穴が空きそうなほどの神経を遣っています。そこまで頑張っているのは、ミランダの要求に対して一度でもミスをすれば、秋にパリに行ってオートクチュールを着てパーティーに出席するという彼女の夢が台無しになってしまうから。この職場では、いかにサバイバルが出来るかが勝負。かなりインテンスな環境です。エミリーの仕事にしがみつく姿は異常にも見えますが その努力は見習っても良いかも知れません。
エミリーが仕事にしがみつく姿に自分を重ねる人もいるのでは?
エミリーが必死で頑張るポイントはたくさんありますが、まず、ひとつ目の努力は、ひたすら「デスクに張り付く」こと。
どんなにトイレに行きたくても我慢をして電話を取る。以前のアシスタントは、カッターで手を切ってしまった治療のためにデスクを離れてラガーフェルドからの電話を取り損ねたため、飛ばされたそう。アンディがオフィスに戻ってくるのが遅くなったとき、「もう漏れそうだったんだから」というシーンもありますが、その姿は滑稽ではあるけれど、エミリーは必死なのです。ある意味、命懸けでデスクを守っているのですね。
2つ目は、どんなに体調が悪くとも休まないという姿勢。その夜に行われるランウェイのパーティーにValentinoのドレスを着て出席したいエミリーは、コンピューターに向かって「私は仕事が大好き、私は仕事が大好き、私は仕事が大好き」と念じるように自分に言い続けるのです。鼻は既に真っ赤なのに……。ところがミランダ編集長は非道にもこのパーティーにエミリーだけではなく、アンディも同行することを命じるのです。
3つ目のポイントは、その夜に行われたパーティー会場に入ろうとするアンディに、「細いのね」と声を掛けた時のエミリーの反応。ここでは彼女が仕事に対していかに体を張っているかがわかります。かなり行き過ぎではありますが、「何も食べないで倒れそうになったらチーズをかじるの。お腹を壊せば理想の体重になるわ」と驚きのダイエット法を語ります。このパーティーのすべてのゲストの名前と顔を覚え、小声で事前にミランダに伝えるのが役目ですが……ここでエミリーは大失敗を犯し、この辺りからファースト・アシスタントのポジションが危うくなってくるのです。
エミリー役がいなければ、映画の魅力は半減
万が一アンディがミスを犯し、パリ行きが中止になったとしたら、アンディに対して「血も涙もなく復讐してやる」と言い放つエミリーでしたが、結果、エミリーは解雇されることに。ミランダに頼まれたエルメスのバッグをいくつも抱えながら街中を走り回るエミリーは、アンディからその件を伝えられる前に車に跳ねられ両脚を骨折してしまいます。
そんな状況になってもエミリーの仕事への執念は凄まじく、お見舞いにきたアンディに対して、ジャーナリストになりたいと言っていたくせに、「あなたがJimmy Chooの靴を履いた日に魂を売ったのね。見てたのよ。一番ムカつくのは、あんたが着させてもらえる洋服よ!帰って」と叫びます。この辺りで呆気に取られてしまいますが、ここまでファッションに心を奪われているエミリーの一生懸命さはクレイジーながらも、見上げたものだと思います。このエミリー役がいなかったら、この映画の面白さは半減していたでしょうね。そのくらいエミリー・ブラントの演技が光っていて、個人的には、彼女の方が癖があってアン・ハサウェイよりも魅力的に見えてしまいました。
原作者のワイズバーガーは、ファースト・アシスタントのエミリーが主人公の小説『When Life Gives You Lulu lemons』を2018年6月に発売。そこには、ニューヨークからロサンゼルスに引っ越したその後の彼女が描かれているそうです。エミリー・ブラントも映画化に意欲的ということなので、今から楽しみですね。
主役のアンディのように「自分にとって何が大切か」を考えて、違う道を選ぶこともひとつの生き方だと思います。
でも、エミリーのように、好きなファッションの世界で生き続けたいと思うチョイスもあります。
どんな状況でお仕事をしていても、きっとこの映画をご覧になれば、疲れている時も「頑張っているのは自分だけじゃないんだ」と元気がもらえるでしょう。すでに一度は観られた方も、今度は違う視点から是非もう一度、ご覧になってください。
では、次回もお楽しみに!
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