
【カリフォルニアの隠れ家バー便り】
世界中からチャンスを求めて移住者がやってくる米カリフォルニア。人種の坩堝の中で生きる様々な人たちが、ふらりと訪れる小さなバーで働く日本人バーテンダーが、カウンター越しに耳にしたリアルなアメリカをつぶやきます。
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アメリカの医療費が高過ぎるホラーストーリー
今日のお客様
久しぶりに来店されたカルロスさん(40代、仮名)は学校の先生をしているメキシコ系アメリカ人。そのカルロスさんが、彼のお父さんが新型コロナウイルスに感染して長期間入院し、治療のおかげで助かったものの腰を抜かすほど高額な治療費を請求されて大変だった話を聞かせてくれました。国民への健康保険が手厚い日本に住んでいたら信じられない話——これを知ったらきっとアメリカに住むのは怖くなるでしょう。
コロナ禍のパンデミック中に入院
カルロスさんのお父さんは2000年3月初めに新型コロナウイルスに感染して長い期間入院したそうです。その頃はまだ「コロナって何?」「パンデミックって何?」という時期——今からもう5年も前のことだと思うとちょっと驚きませんか? 日本を震撼させた地下鉄サリン事件からもう30年という感覚と少し似ている気がします。
さて、カルロスさんのお父さんの話に戻りましょう。お父さんの具合悪くなり、カルロスさんが近所の病院に連れて行くと「コロナ感染の検査をしますが結果が出るまで11日ほどかかるので、その間お父さんは病院で隔離されます」と言われたそうです。数分でわかる検査結果もウイルス発生当初は検査に11日もかかっていた——カルロスさんは仕方なくお父さんを病院に残して帰宅。その数日後に容態が悪化し、治療のために「集中治療室で昏睡状態にして人工呼吸器を使うことになった」と病院から連絡があったそうです。「そんな治療が必要なのか?」と思っても、パンデミック中は病院に行くこともできず、お父さんが帰宅したのは入院から7ヶ月後の10月。医者には「コロナ感染で助かった人の中で最も重症だった」と言われたとか。
その頃はまだパンデミック中だったので、お父さんにどう接するのが正解かよくわからず家族は不安だったそうです。
無事に退院した後の請求額とは?!
治療目的で患者を昏睡状態にする場合、通常2週間が最長ですが、カルロスさんのお父さんの場合は「単に他の治療法がないから」ということで、なんと5カ月間も人工呼吸器を使って昏睡状態にしていたそうです。
目を覚ました後もリハビリが2カ月以上も継続。まず自力で呼吸をすることから始まり、飲食、歩行とあらゆるリハビリをしなければならなかったお父さん。そのお父さんが生きて家に帰って来たことを家族は「奇跡だ!」と喜んで迎えたところ、退院から数カ月経ってから、7カ月の入院のうちの最初の5カ月間の医療費の請求書がカルロスさんの元に届いたそうです。
「いくらだったと思う? なんと300万ドル(約4億5千万円)! あまりにも巨額で心臓が止まるかと思ったよ」
しかも、その後さらに残りの2カ月分のリハビリ治療の請求書も届いたそう。
「もちろん家族全員の貯金を集めても300万ドル(約4億5千万円)なんて払えない。だから保険会社と病院で折衝してもらったよ。高齢者を保護するメディケアやパンデミック初期に国が出した医療費を援助する策などをすべて貰って、いろいろやった末に父が払った金額は2万ドル(約300万円)くらい。そうならなければ家族心中になるところだったよ」と、カルロスさん。
医療保険が手厚な日本人からすると「保険の対象外が300万円。それを自分で払うなんてあり得ない!」と怒る人が多いかも知れませんが、アメリカでは「300万円で済んで良かった! 助かった。ありがとう!」となるのです。それが良いことだと思っている人はひとりもいないと思いますが、本当に恐ろしいことです。
病気やケガをするまで「いくらなのか分からない」
カルロスさんのお父さんは幸いにも政府の資金を貰うことができましたが、政府の資金が尽きた後は申請してももらうことができず、膨大な医療費の請求と向き合わなければならないコロナ感染者がアメリカには大勢いたそうです。
日本と同様、アメリカでも大多数の人が職場を通じて健康保険を得ています、でも日本と異なり、保険の種類はそれぞれの会社で内容はピンキリ。国としては高齢者をカバーする「メディケア」と、低所得者や職場を通じての健康保険に加入できない人を支援する「メディケイド」がありますが、高齢者か低所得者しかこの援助はもらえません。
2023年の統計ではアメリカ人の92%が「なんらかの健康保険」に入っていて、うち大半が職場を通じての保険、36%がメディケアやメディケイドの政府の保険制度を利用中。保険の内容や住む場所によってかなり差がありますが、「個人が支払う保険料」は平均で「毎月400ドルから900ドル(約6万円から13万円)」。4人家族の全国平均は毎月1500ドル(約22万円)と言われるので、日本人には意味がわからないと言われそうな数字です。
個人が自分で選んで加入する保険内容によって医者に会う度に支払う医療費も変わります。毎月支払う保険料に加え、ディダクタブルと呼ばれる控除額(保険会社が支払ってくれる金額に達する前に自腹で支払う額)と、一定の負担金(一回の定額の場合と割合で支払う)場合がありますが、病気になるといくら必要になるのかはそれでは分からず、かなりハラハラし続けるのがアメリカの現実です。
想像してみてください。もし、あなたが4人家族なら毎月あなたのお給料から約22万円が使ってもいない毎月の保険料に消えるのです。あり得ますか? 少なくても私はすごーく辛いです(涙)。
日本の医療制度は最高!
アメリカでは保険がない場合、病院での1泊が2,000~5,000ドル(約30万円から75万円)、集中治療室での入院は「1日」1万ドル(約150万円)を超えることもあります。あり得ないような金額ですがこれは現実で、こうして生まれた医療負債は「アメリカにおける個人破産」の主な原因となっています。
新型コロナウィルスの流行は、「アメリカの健康保険制度がどれほど脆弱か」を露呈した出来事にもなりました。300万ドル(約4億5千万円)の請求書を作成すること自体に疑問がありますが、かなり以前からアメリカにおける超高額医療費が大きな社会問題になっていても依然として解決策はありません。アメリカに住む私を含む大勢の人が「病気ひとつで経済的な破綻を迎える危険」にさらされているのが現実です。「アメリカで大病したら人生が終わる」という話は大袈裟な話ではありません。
先日、日本に住む私の母が3週間入院しましたが、その請求書はたった2万円でした。正直びっくりし過ぎて、アメリカに住む日本人として「どうしていいかわからなくなったほど」でした。この話をバーに来店されたお客様にすると「菜津子はなんでアメリカに住んでいるの? 日本はとても素晴らしい国だから帰りなさい」と言われます。私はきっと日本に帰国した方が幸せな老後を送れるのでしょう。
それは横において、カルロスさんのお父さんは普段の生活にはほぼ不自由がないくらいに回復されているそうですが、お酒好きだったけれどもコロナ後は一口もお酒は飲んでいないそうです。そんな彼のお父さんのために、これからの健康を祈りつつ、お父さんのお気に入りのゴールドラッシュで乾杯しましょう。
今月のカクテル:ゴールドラッシュ

2000年代初頭にニューヨークで最初に作られたモダンカクテル。簡単な材料や名前からクラシックなカクテルと思いがちですが、ゴールドいうカラーがお祝いっぽいことと、ハニーが体に良いモノの象徴のひとつとして「健康と長寿のお祝いのお酒」とふさわしいと言われています。ハニーはそのまま入れると底に溜まりがちなので、シンプルシロップを作る要領で同量のお水と一緒に一度沸かして使って下さい。