急に質問されても答えられない
こんにちは、ランサムはなです。前回は「国際人になる!」と、意気込んで渡米した私が、「国際人になるということはアメリカ人になること」ではなく、実は「日本人としての自分を見つめ直すこと」だということに気づいたという話をしました。
実際、アメリカに来て暮らし始めると、自分はどうあがいてもアメリカ人にはなれない、自分は日本人なのだな、としみじみと思わせられる場面がよくありました。
以前にも書きましたが、アメリカではどこへ行っても、自分が何を求めているか、何を欲しているかをよく聞かれます。友人の家に遊びに行けば「何が飲みたい?」、レストランに行けば「サラダのドレッシングは何にしますか?」、「プロテイン(肉、魚、豆などのタンパク質の総称)は何にしますか?」、「ソースはかけますか、横に添えますか?」などと事細かく質問されます。 でも、そんなことを急に聞かれても、自分は何が欲しいのか、種類と数が多すぎてわかりません。そもそも飛行機の機内食で、「チキンか魚か」と二択から聞かれるだけでもドギマギする性格です。それなのに、「カフェラテをアーモンドミルクで、ホイップクリームは多めに」とか、「ハンバーガーはオニオンとマスタードを抜いて」とか、「辛くして」とか頼めるわけがありません。これは英語力不足の問題ではなく、考え方の違いです。
「あなた」はどうしたいのか?
人から自分の好みを聞かれる以前に、英語では「You」を連発されることが多いことにビビりました。
“What would you like? “(あなたは何が好きなのか?)
”How would you like your salad?”(あなたはサラダに何をかけたいか?)
”What would you like to do?”(あなたはどうしたいのか?)
英語の構造上、主語を省けないので仕方のないことだと頭で理解はしていても、日本語訳を考えてみると「あなたはどうか」です。日本語で「あなた」、「あなた」と連呼される状況を思い出してみると、叱られる時ぐらいしか思い浮かびません(苦笑)。
「あなたはどうなのですか」と聞かれる度に戸惑うことを繰り返しているうちに、よく考えてみたら「自分」が何を欲しているかなんて、じっくり考えたことがほとんどないことに気づきました。
だって日本だったら、「シェフのおまかせ」とか、「日替わりスペシャル」を選べば、あとはどんな料理が来るかのんびり楽しみに待っているだけで、美味しい料理が出てきます。いちいち考えなくていいんです。
こちらが何も言わなくても気を利かせ、先回りしてこちらが喜ぶことを考えてくれる日本。
自分は今まで、いかに周囲が気を利かせてくれることを当たり前のように思って、優しさに寄りかかり、何も考えずに生きて来たのか、と改めて思い知らされました。 そんな私には、こともなげに「アイスティーは砂糖ぬきで」、「サンドイッチはパン抜きで、具だけお願い」などという注文をしているアメリカ人の友人たちが、異星人のように見えました(パンなしのサンドイッチなんて、サラダと同じでは?笑)。この人たちは、日頃から「あなたはどう思うか?」という質問を繰り返し受けて、自分が何を求めているかを考える訓練ができている人たちなんだなあ……と思いました。
この相違は言語の成り立ちに関係する?
このような違いが生まれる背景には、言語の成り立ちも関係しているかもしれません。
日本語は主語を省くことを好む傾向がありますが、これは「和を守る」ことを最優先させることと関係がありそうです。日本語の場合、「私は」、「私は」と主語をつけて話すだけで、ともすると我が強く生意気な印象を与えてしまいますが、「和を守る」ことを大切にする社会では、「私」と「あなた」の境界線があいまいな方が、「和」という雰囲気を作りやすかったのかもしれません。
人はひょっとすると、知らず知らずのうちに、生まれた国の言葉に影響されて考えのクセみたいなものがついていくのかもしれない……。
とは言え、周囲の善意に寄りかかるばかりで、自分に向き合ってこなかったことに気づいた私は、日本社会の優しさに感謝しつつも、自分の足で立つためには自分のことをもっと知り、言語化できなければいけないと思いました。
英語を学び、英語で考える習慣がついてから、私の考え方も少しずつ変わってきたように思います。”Would you……?”と日常的に聞かれ、それに答える訓練をしているうちに、「私はどう思うのか」、「私は何がしたいのか」を真剣に考えるようになりました。そうでもしないと、何も答えられないからです。
「自分は何がしたいのか」をよく考え、伝えることは、我を通してわがままを言うことではなく、責任を持って自分の面倒を見ることだ、ということに、英語を勉強してようやく気付きました。
「言葉が人をつくる」って、本当だな……と思います。
ランサムはなのワンポイント英語レッスン
“You”の複数形:
多くの方がご存知かと思いますが、英語の”You”は単数形と複数形が同じです。「あなた」も「あなたたち」も同じということですが、カジュアルな場面で複数形であることを強調したい場合は、”You guys”という言葉がよく使われます。”guys”は男性という意味ですが、女性に対しても使われます。私の住むテキサス州などの米南部では”Y’all “という表現も使われます。“you all”を短くしたもので、「ヨール」などのように聞こえます。
『写真で見る 看板・標識・ラベル・パッケージの英語表現』ランサムはな著
『写真と動画で見る ジェスチャー・ボディランゲージの英語表現』ランサムはな著
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