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日本とアメリカ文化の違い「主婦編」
こんにちは、ランサムはなです。前回は日本とアメリカの「サービスの感覚の違い」についてお話ししました。日本の感覚からすると、やりたい放題やわがままに見える顧客の振る舞いにも嫌な顔ひとつせず接客するアメリカのウェイター・ウェイトレスや店員さん。でも、それはアメリカでの「究極のサービス」が、その人(客)のわがままを聞いてあげることだからであり、そのようなサービスをフル活用しようと思うなら、お客であるこちらもわがままが言える状態でなければいけない……。そんな文化的な違いがあることがわかった、というお話をしました。
日本とアメリカの文化的違いと言えば、もうひとつ驚いたことがあります。それは日本とは違って、アメリカでは「主婦」を名乗る女性が圧倒的に少ないことです。
アメリカには女性用のエプロンがない?
最初にそのことに気づいたのは、日本に住む母にクリスマス・プレゼントは何が欲しいかたずねたときに、エプロンをリクエストされたことがきっかけでした。私は何も疑問を持たずに、アメリカのショッピングモールにエプロンを買いに出かけました。ところが、どこを探しても日本の主婦がしているような花柄やかわいいエプロンが見つからないのです。キッチン用品のコーナーにも、婦人服のコーナーにもありません。困り果てて店員さんに助けを求めたところ、プロの料理人、特に男性のシェフが着用しているような白無地のシェフコートが売られている場所に案内されました。
「こんなプロの料理人のユニフォームみたいなのじゃなくて、家で奥さんがしているような、花柄とかピンク色のかわいいエプロンはありませんか?」と聞いても、店員さんは首をかしげるばかりです。
結局、プロのシェフが使うような厚手の白いエプロンしか手に入れることができず、残念ながらそれを母に送るしかありませんでした。母が「プレゼント選びの上手なあんたがエプロンを見つけられなかったってことは、本当にアメリカにはエプロンがないんだね」と、びっくりしていたことを覚えています。アメリカには、日本のような「主婦」像がないようだ、ということを初めて実感した出来事でした。
主婦に向いていなくても問題ない
それからあらためて注意して周囲を見てみると、日本のようなエプロンをしているアメリカ人女性は本当にひとりも見当たりませんでした。家にいて主婦業をしている女性もいることはいるのでしょうが、「私は主婦です」と名乗ったり、職業欄に「主婦(housewife)」と書く人はほとんどいません。むしろ日本の方が、主婦業は一種の職業という意識が強いのかもしれません。
「主婦」が見当たらない、日本と同様の「専業主婦」のイメージがアメリカにはない、ということは、私にとっては大きな衝撃でした。何しろ私は子供の頃から不器用で、「自分は主婦失格」という深い劣等感を抱いて生きてきました。料理、掃除、裁縫など、主婦の仕事はどれも苦手。お茶を入れたり、お酒を注いだりするのも下手で、「男性を立てる」と言うこともよくわかりません。なので、「こんな自分は果たして結婚できるのだろうか?」と、暗澹とした気持ちで過ごしていたのです。
でも、アメリカには日本的な「専業主婦」がいない。となると、私は主婦を目指さなくても良いことになります! 長年苦しめられていた呪縛から解放された気持ちになりました。
それは固定概念なのか、ただの思い込みなのか
その後、ホームステイなどの経験を通じて、アメリカは基本的に夫婦共働きがデフォルトであり、子育て中の女性でも何かしら仕事をしているのが一般的だと言うことを知りました。
夫が高給取りで働く必要がない奥さんもいますが、それでも自ら「主婦」と名乗り、エプロンをして手料理や身の回りの世話などかいがいしくご主人に尽くしている姿はほとんど見かけません。むしろ、ご主人が高給取りになるとお手伝いさんを雇えるので、奥さんは家事からはますます解放されていきます。台所にほとんど立ち入らないので、キッチンはいつもピカピカだったりします(笑)。私のホームステイ先は心臓外科医の一家で非常に裕福だったので、お手伝いさんが出入りしていました。奥さんは趣味でたまに料理はするものの、子育てをしながら大学の講座を聴講するなど、優雅な生活を送っていました。
また、アメリカでは男性たちも、日本ほど奥さんに身の回りの世話を焼いてもらうことを期待していないように見えます。アイロンがけや料理が女性よりも遥かに上手な男性もたくさんいるのは、幼少期から女性に世話をしてもらうことを当てにしない教育を受けてきているからでしょう。アジア系アメリカ人の中には、女性に尽くしてほしいと考える男性も多いとも聞きますが、全体的に見ると女性に対する男性の期待度は日本と比べるとかなり低いようです。もちろん、これは私の主観ですが。
私はここで、専業主婦が良いとか悪いと言いたいのではありません。ただ、日本のような「主婦像」が存在しないアメリカという国に来て、「女性は男性に尽くさなければいけない」と言うこれまでの固定概念が、ただの思い込みに過ぎなかったことに気づけたことは、大きな収穫だったと思います。「結婚したら、女性が食事を作らなければいけない」、「女性が、男性の身の回りの世話をしなければいけない」、「稼ぎは男性の方が多くなければいけない」など、日本では夫婦に関する固定観念はたくさんあります。それが自分にとって違和感なく受け入れられるものなら、受け入れれば良いと思います。でも窮屈と感じられる場合は、無理にその枠に自分を当てはめようとしなくても良く、夫婦でお互いに心地よいあり方を追求しても良いとわかった時、大きな肩の荷が下りて、結婚にも前向きになることができました。
「こうでなければいけない」という思い込みから、不要に自分を苦しめてしまうことが何と多いことでしょう。生きづらさを感じるときは、「本当にそうでなければいけないのか?」と立ち止まって考えてみることで、救われることもあると思います。アメリカに来たことで、そのような自分の思考のゆがみに気づくことができて本当に良かったと思います。
ランサムはなのワンポイント英語レッスン
主婦=house wife
「主婦」を表すもうひとつの表現に、「Stay at home mom」「Stay at home parent」があります。「ずっと自宅にいて子育てを優先しているお母さん(親)」という意味ですね。日本では家事労働の月給相当額は「20万3000円」、つまり年収243万6000円と考えられているそうですが、米国のSalary.comの調査によると、家事労働の対価は$178,201(約1800万円相当)だそうです。これだけ大きな差があるのは驚きですね。
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