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クリスマスのご馳走といえば、ケンタッキーフライドチキン!
こんにちは、ランサムはなです。2021年もまもなく終わり……。あっという間の一年でしたね。クリスマスは、ご家族や恋人と祝う方も少なくないのではないでしょうか。今回はクリスマスにまつわる、私のほろ苦い体験をお話ししたいと思います。
私はアメリカ人の夫と結婚して間もなく故郷の北海道に戻り、10年近く日本で暮らしました。長年日本で暮らし、毎年ケンタッキーフライドチキン(KFC)で購入したチキンを囲んでクリスマスを祝っているうちに、「KFCのないクリスマスは考えられない」ほど、KFCのフライドチキンは我が家に定着しました。毎年クリスマスにはKFCのクリスマスバーレル、お寿司の出前、それにドクターペッパー(当時、北海道の田舎ではめったに買えなかったのでネット通販でお取り寄せ)というのが、私達夫婦のクリスマスのささやかな定番メニューでした。
日本のKFCがクリスマスに販売するパーティバーレルは、フライドチキンに加えてケーキやサイドディッシュもセットになっていて豪華です。毎年異なるデザインの絵皿もついてくるので、私はその絵皿も集めていました。クリスマス当日、チキンの受け渡しで込み合うケンタッキーの店舗で列に並び、ようやく受け取ったチキンを手に、凍った冬道を足元に気を付けながらヨチヨチ歩きで自宅へ向かった時のことを思い出すと、今でもほっこりとした気持ちになります。
ケンタッキーフライドチキンと緑のたぬき
そんな私達夫婦にとっては、KFCのクリスマスは心温まる我が家の「伝統」でした。ところが、これをアメリカに住む友人に説明しても、なかなかその良さがわかってもらえないのです。
日本にいた頃、アメリカ人の友人に「クリスマスはどうしていたの?」と聞かれて、「KFCを食べたよ!」と言うと、友人の大部分はちょっと気の毒そうな、失笑をかみころすような表情でこちらを見ます。「信じられない」と言わんばかりに目を丸くして首を振る人もいます。そのたびに私は一生懸命、「アメリカではターキーの丸焼きでクリスマスを祝うけれど、日本ではケンタッキーフライドチキンなの! 日本のKFCはクリスマスが年に一番の稼ぎ時なのよ!」と説明しなければいけませんでした。でも説明したところで、半信半疑の顔をされることの方が多かったです。
おそらくアメリカ人にとって、「クリスマスにKFCのチキンを食べる」という話は、例えて言うならば、日本人が外国人から「我が家では、年越しには毎年カップヌードルの緑のたぬきを食べるんです!」と嬉々として言われて、「えっ、そうなの?」と、ちょっと驚く感覚に似ているのかもしれません。
アメリカに住むアメリカ人にはなかなか理解してもらえない我が家の「伝統」でしたが、私達はそれをとても気に入っていたし、楽しく過ごしていたので、アメリカに戻ってもこの習慣を変えようとは思っていませんでした。
アメリカでも我が家の伝統を守ろうとしたのに……
アメリカに引っ越して、クリスマスを迎えることになった最初の年、私達はどんなクリスマスを祝おうか話し合いました。アメリカでは家族が集まってターキーや骨付きハムを焼きますが、夫婦2人暮らしで子供のいない私達にはそれだと分量が多すぎます。それに私は、何しろ料理が大の苦手です(苦笑)。また、翻訳者にとって年末年始はかき入れ時なので、のんびり料理をしている時間もありません。
そこで私は、「日本にいたときのようにKFCのチキンで祝ってはどうか?」と提案してみました。クリスマスバーレルなら夫婦2人にも無理のない、ちょうどいい分量です。多様性を重んじるアメリカなのだから、KFCでお祝いするクリスマスがあってもいいのでは?と思いました。
さすがに日本のような絵皿付きのクリスマスバーレルはないかもしれないけど、チキンだけでも買って、他のお店でお寿司を注文すれば、我が家の伝統をアメリカでも続けることができるというアイデアが頭に浮かんだ時、「我ながら良い考え!」と私は有頂天になりました。
そして待ちに待ったクリスマス当日。
日本のように行列はできていないかもしれないけど、念のために少し早めにお店に行こうと思い、お昼時にKFCに着いた私は、我が目を疑いました。
街に誰もいないアメリカのクリスマス
な、なんということでしょう……。
KFCの店舗はシャッターが降ろされ、電気も消えていました。人の気配も感じられません。それだけではなく、KFCがあるショッピングセンターの駐車場一帯が、いつになくガラ~ンとして物寂しい雰囲気です。このショッピングセンターは家電量販店やDIYのお店などが入っていて普段は込み合っているのに、その駐車場に車が一台もないのです。シーンと静まり返った駐車場にいるのは私達だけ……。
「ひゅ~っ」という風の音が聴こえるほど静かで、閑散とした侘しい風景でした。
「な、何これ? クリスマスにKFCがやってないなんて、ありえない」。状況を飲み込めず、諦めきれない私は、「日本のKFCが一年で一番稼いでいる日に、アメリカのKFCは何をやってるんだ!」とか、「多様性とか言っておきながら、KFCで祝うクリスマスはなしなのか?」と苦情を言いたいのに、店員は一人もいません。非情にもシャッターを下ろしたKFCの前で、私は呆然と立ち尽くすしかありませんでした。
アメリカのクリスマスは日本の元旦と同様、家族で祝う祝日。クリスマス当日には街に買い物に出る人もなく、クリスマスに開いているお店を探すこと自体、大変なことなのです。こうして、日本で築いた伝統をアメリカでも続けようという私のもくろみは、KFCの非協力という壁の前に、あっけなく崩れ去ったのでした。
暮す文化が変われば、好むと好まざるとに関わらず、私達も変わっていかなければならない……ということを痛感した出来事となりました。
今は、私達が足しげく通った北海道のKFCも閉店し、私達もアメリカ式のクリスマスを祝うようになりましたが、今でも毎年クリスマスが近づくと、あの時の衝撃を思い出します。それでは皆さん、Happy Holidays!
ランサムはなのワンポイント英語レッスン
アメリカには、クリスマスケーキも存在しない
アメリカには、日本では一般的な「クリスマスケーキ」がありません。アメリカ人がクリスマスに食べるお菓子は、クリスマスツリーや雪だるまなどの形で、赤や緑のフロスティングをかけたクリスマスクッキー(Christmas cookies)や、アップルパイなどのパイ類、ジンジャーブレッドでできたお菓子の家、フルーツケーキなどです。クリスマスに好んで飲まれるエッグノッグという飲み物もありますが、「クリスマスケーキ」はないのです。これもフライドチキン同様、日本独自のクリスマスの習慣なのでしょう。
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