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人生が大きく変わる3月
こんにちは、ランサムはなです。3月は日本では卒業式の季節ですね。大学進学のために地方から都会へ上京する人、就職して社会人になる人など様々な方向に向けて人生が動き出す時期。多くの別れや出会いがあり、人生が大きく変わる人も多いでしょう。
私自身の人生を振り返っても、高校卒業後、出身地の北海道を出て東京の大学に進学したことで、今のキャリアにつながる道がスタートしたとも言えるので、若い人にとって3月は特別な時期だと思います。
アメリカでは3月は春学期半ばで(卒業は5月)、日本のように転機を迎える時期という認識はありません。ただ、各国で新型コロナウイルスが蔓延し始めてから、もう3度目の春を迎えます。このウイルス感染拡大の影響を受けて、日本の卒業式とは別の意味で人生が大きく変わる体験をした若いアメリカ人たちも少なくありません。
コロナ禍で日本留学を断念したアメリカの大学生たち
私は数年前までアメリカの大学で日本語を教えていました。現在も交流がある元教え子たちも大勢います。
先日、元教え子のひとりが私の住む町まで訪ねて来てくれたので、久々に積もる話に花が咲きました。5月に卒業を控えていると言うので、「大学生活を総括するとどんな感じ?」と尋ねたところ、「COVID」と一言。それを聞いて、私は返すべき言葉が見つかりませんでした。新型コロナウイルスが流行し始めた年、彼は秋から日本の大学に交換留学することが内定していて、初めての日本行きに胸を躍らせていました。日本に行ったらこんなこともしたい、あんなこともしたい、と目をキラキラさせて語ってくれていたのを覚えています。
ところがその後、ウイルス感染拡大の影響で、外国人留学生の日本への入国が禁じられました。航空券の手配までしていた彼は、日本のニュースを逐一フォローし、日本が水際対策を強化したり緩和したりするたびに一喜一憂。留学が始まる9月までにはコロナ禍が収束してほしいと必死で祈り続けました。私も最後まで希望を捨てないようにと励まし、一緒に祈りましたが、残念なことに一度は合格通知をくれた大学から、「今期は留学生の受け入れを断念する」という通知が届き、彼の夢は打ち砕かれました。
日本留学の夢が閉ざされた彼は、その後も頑張って日本語の勉強を続けようとしましたが、強い気持ちを維持することができませんでした。そして心が折れてしまった彼は、先日「先生、ごめんなさい」と連絡してきました。「日本語に対する興味が失せてしまいました。全部COVIDのせいです。僕はもう日本語のクラスを取るのはやめて、中国語を勉強します」と、申し訳なさそうに言っていました。
けじめのつもりで私にも連絡してくれたのでしょう。悲しみを乗り越えて前に進もうとしている彼に、何としても日本語の勉強を続けてほしいと言うことは、あまりにも酷な気がして、私にはできませんでした。
日本への興味を失っていく若い外国人たち
実はこのような事例は、彼のケースだけではありません。日本への留学が決まっていたけれどもコロナの影響で留学を断念し、違う道へ進むことを余儀なくされた教え子は、他にも何人もいました。日本への留学が内定していたにもかかわらず、留学を取り消され、そのままアメリカの大学を卒業した学生、次の目標が定まらないまま一年ボランティア活動をした後、アメリカの大学院に進学し、そこで日本語の勉強を続けることにした学生もいます。
このような状況になっても、日本と日本語に対する情熱を失わずにいてくれる学生もいる一方で、念願の日本の大学院に進学できたものの日本への入国が許されないため、オンラインで授業を受け始めたけれど、時差の大変さと、いつまでたっても日本に行けないことにしびれを切らし、アメリカの大学院に転校することを決めた学生もいました。
若い人たちがこのウイルス蔓延によって人生の計画変更を余儀なくされる影響は、計り知れないものがあると思います。個人の人生への影響は言うまでもありませんが、日本とアメリカの架け橋になってくれていたかもしれない優秀な人材が、次々と日本や日本語とは関係のない方向に舵を切っていく姿を目の当たりにするのは、何とも残念でなりません。ウイルス蔓延防止のためとは言え、もう少し留学生に配慮の行き届いた対応ができなかったものだろうか、と思わずにはいられません。
架け橋を増やすことで強まる日本の存在感
本当に一日も早く、また外国人や外国に住む日本人が自由に行き来できる状態になってほしい、と思います。日本は世界的に見ると小さな国です。日本人が義務教育で英語を勉強させられるのとは違って、アメリカでは日本語は選択科目であり、誰もが興味を持ってくれるわけではありません。中国と韓国と日本の区別もつかないような人たちがアメリカの大半を占める中で、あえて日本語を選択科目に選び、日本に行きたいとまで思ってくれる若者たちは、とても貴重な存在だと思います。
このところアメリカに留学する日本人の数が増えていないのにも関わらず、英米で「ラーメン」や「お弁当」などの日本文化が定着し始めている理由のひとつには、毎年、日本政府が英語教育のためにALT(外国人指導助手)を世界各国から招へいして日本各地に派遣された外国人青年が、自らが経験した「小さな日本」を大切に自国に持ち帰り、その種を自国で育ててきたこともあると思います。ひとりひとりの草の根的な国際交流が地道に続いていくことで、そのような外国人青年を通じて日本の存在すら知らない海外の人にも日本の良さが伝えられ、世界における日本の存在感が強まっていきます。日本を世界にアピールするためには、日本人の英語教育に力を入れることももちろん大切ですが、日本と海外の架け橋になってくれる人材を、国籍を問わず増やそうと意識することも同様に大切なのではないでしょうか。
「親日派」の外国人が世界各地で親善大使として活躍してくれれば、日本の良さがますます世界に広がっていきます。私たちは意識するとしないとにかかわらず、常に世界とつながっていることを忘れてはいけないと思います。
ランサムはなのワンポイント英語レッスン
「国際人」は英語に訳せない言葉
日本人はよく「国際人を目指そう」などと言いますが、英語には厳密に「国際人」に相当する言葉はありません。私自身、「国際人」になることを目標に英語を勉強してきましたが、こちらに来てからは逆に「日本人」であることを強く意識するようになりました。私が教えている翻訳塾での英文履歴書の指導時に、自己PRポイントとして「国際人」(international)と書いてきた生徒さんがいましたが、すぐに削除して「日本語ネイティブ」(native Japanese)と書き換えてもらいました。世界に出ていく人は英語ができることが大前提になるので、「国際人」と書いてもスタート地点に立っていることがわかるだけで、セールスポイントにはならないのです。英語圏で仕事を探す際にはそのような発想の転換が必要です。
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