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手渡したいストーリーのある「贈物」
スタイリストの河井真奈さん。インタビューの前編では、妻・母・プロフェッショナルを両立させるヒントについてお話を伺いました。後編では、そんな河井さんが立ち上げたギフトショップ「futo(ふと)」への想いを伺います。
「ふとしたときに……」という瞬間に思いを込めて
編集部:河井さんはfutoというギフトショップを経営されています。お店を開いた経緯を教えてください。
私はファッションのスタイリストをやっている時から、服だけではなく小物などを含めたスタイリングを守備範囲としていました。
ハイファッションを追いかけるよりも、服とモノを両方合わせてコーディネートすることが、自然と得意になったのかもしれません。
自分の審美眼にかなう、良いモノを集めた本『絶対 美人アイテム100』(文藝春秋社)を上梓したのが2011年です。この頃からものを作る人から、「どのような売り込みをすれば良いのか」、 「どのようなパッケージングをすればいいのか」などの相談を受けるようになりました。女性誌などのメディアにも、「良いものがありますよ」と紹介をする機会も多かったのですが、昨今メディアの部数が減って、面白いページ展開がなかなか叶わなくなってしまったんです。
それで「自身でウェブサイトを立ち上げ、モノに込められたストーリーを紹介していきたい」と思うようになったんです。そしてサイトが立ち上がったら、今度は実物を見たいと言うお客様が増えて……。結局、2019年6月に思い切って店を持つに至りました。
編集部:ショップのホームページを拝見しましたが、そこには「物語るギフトショップ」と書かれています。また、futoとは「ふとした瞬間」の「ふと」だそうですが、こうしたコンセプトを思いついたきっかけを教えて下さい。
30年のスタイリスト人生で、たくさんの物とかかわってきましたが、何かが生まれるところには、必ずストーリーがあるんです。でも、雑誌での紹介はどうしてもページに限りがありますから「ビジュアル」重視となり、作った人やブランドの思いまで伝えることがしにくいんですね。ですからfutoでは、作り手の思いを伝えるコンセプトを大事にしました。
「その物語を知って、また誰かに伝えたくなる、贈りたくなる」――そんな風に、ギフトをテーマに発信していきたいと思ったのです。
「ふと思う」は、私自身が普段良く使う言葉でもあるんです。「ふと、思ったんだけどね」なんて。なので、このショップ名は「私にはぴったりなメッセージのある言葉だな」と思っています(笑)。
リスペクトとサプライズ溢れる商品を
編集部:futoではどのような視点で、取り扱う商品を集めているのでしょうか? いくつか商品例をあげて教えてください。
例えばfutoでは、伝統工芸を取り扱っているのですが、そのほとんどが今の現代のライフスタイルにあったモダンなアイテムになっています。伝統工芸は、それを手掛ける職人さんの高齢化が進んでいます。けれど、それらを受け継いでいる30代、40代の息子さんや娘さんが、伝統を大切に繋ぎながらも、これからの時代を見据えた取り組みをされているケースがたくさんあるんです。そんなモノづくりをされている方がつくる商品には、大変惹かれるものがありますね。
また、一目見ただけでは気づかないストーリーがある商品も取り扱うようにしています。ご紹介すると「へー」と面白がっていただけるサプライズのあるギフトは、最高に素敵ですし、楽しいと思いませんか? 私も商品を説明した際、お客様が目を丸くするくらい驚いていただけると、とても嬉しい気持ちになります。
取り扱う商品は、「高ければいい」という視点では選ばないことも、大切にしています。贈り手にとっても、手に届きやすいだろうなと思えるプライス設定にもこだわっています。
編集部:futoはギフトショップでありながら、商品開発をしたり、ギフトコンシェルジュのサービスもされています。それらはどんなサービスなのでしょうか?
「こんなものがあったらいいのに」という周りの声があると、頑張って作りたくなります。そんな声に応えるべく、実際に商品化して下さる作り手さんと二人三脚をさせていただく際には、彼らの物づくりへのリスペクトを大切にしながら、アイデアやコーディネート、プロデュースをするようにしています。
ギフトコンシェルジュは、スタイリストの仕事の延長でもあります。「様々なシーンに何を選ぶか」は、いつも考えてきたことなので、贈り物に関してもやっていきたいことです。具体的には、例えば結婚する方がこれから何を選んで贈り物をするかをアドバイスしたり、企業様がお土産にして喜んでもらえるものを考えたり、社長様がセンスのいい贈り物をしたいというご相談を受けたり。お店で扱っていないものでも、お客様の気持ちを具現化できる贈物をお探しすることもあります。
ヒト、モノ、コトが繋がる「場」を作りたい
編集部:futoでは、サロンも開催されていますよね?
はい。コロナでやりづらくなっていますが、futo Salonというものを定期的に開催しています。ヒト、モノ、コトを繋ぐのが好きなんです。サロンを開催すると人が集まり、集まった人たちのコミュニティもでき、ギフトアイテムをご紹介する場になり、そのアイテムの背景にあるストーリーも伝えられる――楽しみにしていただいているお客様が多いんです。
久しぶりに4月から復活したサロンでは、占星術の研究家の岡本祥子先生に「これからの時代をどう生きるか」をテーマに集まっていただいたのですが、これが大好評で。私はというと、白熱しすぎてパワーを吸い取られたのか、翌日には使いものにならないほど、クタクタになってしまいました(笑)。
先日は、現代風金継ぎの会をやりましたが、これも楽しかったです。ご参加くださった方からも、お礼のメールをたくさんいただきました。誰もがちょっと興味のあることを気軽に体験できる場でありたいと思っています。
河井真奈さんにとって、ミライを創る情熱とは?
編集部:これからどんなお店づくりを目指されたいですか?
私は、下積み時代があったわけでもなく、スタイリストになってから一度も営業することなく、いつも誰かから求められ声をかけていただき、何となくここまでやってきました。そんな私が「futoをやりたい」と自らお店を持つに至った――まさにfutoは私にとって初めての挑戦であり、初めて自分の意志で立ち上げた新しいことなんです。
もちろん想いだけで、ビジネスは続くものではありません。苦労もあります。けれど、お店に立つと「こんな店、欲しかったんだよ」と喜んでいただけるお客様がいる。その出会いひとつひとつに胸が熱くなります。
神様が人生に用意して下さった挑戦という想いもあります。ですから、自分の信念を貫きたい。誰もが愛する誰かのために「ふと、その人を思って」何かを贈るお手伝いをしたい。多くの人が贈り物上手になって欲しい、ワクワクするような贈り方をしてほしい……。そんな思いを実現できる場に、このお店が成長してくれたら良いな、と思っています。
編集部:この企画は「ミライを創る情熱」というタイトルがついています。河井さんにとって「情熱」とはどういうものですか? またご自身が「情熱」を傾けていることは何ですか?
子供の頃から「人のためになることがしたい」と思ってきました。せっかくの人生、何かの誰かの役に立つことで全うしたいんです。
ここ15年ほど社会貢献の一環としてファッション業界のメンバー70人(スタイリスト、モデル、女優、編集、ヘアメイク、フォトグラファー、プレスなど)を束ねて「F Candles」という年2回フリーマーケットを開催し、その一部を寄付にする活動をしています。コロナ禍でお休みしていますが、秋には何かしらの形で再開を目指しています。
また、パリと日本のファッション業界が東北の震災の後立ち上げた、Hope &Loveも毎年お手伝いをしたり、震災の時は炊き出しで石巻にいったりしています。
そうした活動を続けるためにも、常に自分自身の心身が健康を心がけています。一時的なボランティアだけでなく、自分の愛で包み込めるような仕事をしていきたいと思います。
河井真奈さんのプロフィール
ファッション&ギフトスタイリスト。長年、女性ファッション誌を中心に活躍し、バランスのとれた鋭い目利きでモデルや女優をはじめ、多くの女性たちから幅広い支持を得ている。近年では企業向けのアドバイザー、百貨店などの顧客のためのスタイリングも手がけている。エレガントで上品なスタイリングに定評があり、今秋からはパーソナル・スタイリングのメソッドも立ち上げる予定。著書に『絶対 美人アイテム100』(文藝春秋刊)、『服を整理すれば、部屋の8割は片付く』(立東舎刊)。小学館Precious webの「ジャパンラグジュアリー」、ゼクシィWEB MAGAZINE「今月のWeddingギフト」でも絶賛連載中。