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世界にたったひとつの魂が宿る作品を
オンリーワンの作品制作にこだわるアーティスト、Tomoさん。業界のセオリーに流されず、独自のスタンスで自分だけの世界観を築きあげてきましたが、古き良きものの素晴らしさやクリエイティブの楽しさ、魅力を次世代に繋ぐことにも力を入れています。作品づくりに対する熱い想いなどについて、さらにお話を伺いました(聞き手:永浜敬子)。インタビューの前編はこちら。
ストーリーが広がるキャラクターごとの世界観
編集部:「作品委託はしません。催事には出ません」と銘打たれていますが、造形のアーティストには、あまり見られないスタンスですよね?
作品委託をしないのは、私の作品はすべてキャラクターの設定があるからです。人形なら、どんなところに住んでいて、どんな性格なのか。食べ物の好き嫌いや趣味、声のトーンやおしゃべりの内容まで全部違う。
たとえば双子の姉妹の人形の設定はこうです。「彼女たちはいつも色違いの洋服を着ています。ある日『ママを驚かそう』とお互いの服を交換しました。『ママ、どんな顔をするだろうね』とワクワクしている」、その瞬間を立体化しました。古くなって森に捨てられたぬいぐるみは、「綻びを自分で縫ったけれど、ちょっと綿が出てしまった。いつか誰かが迎えにきてくれると信じて待っている」という設定です。だから、このぬいぐるみは「寂しそうだけど、瞳に希望が見える」といったように作品ごとにストーリーがあるんです。
泣き虫な子も意地悪な子も、いろんなタイプがいますが、すべてそのときの私の内から湧き上がってきた世界観。だから同じものは2つと作れないし、「こういうものを作ってほしい」という委託にも応えられないんですよ。
編集部:なるほど。では、催事に関しては? あちこちでクラフト関連イベントが開催されていますが、出展されないのですか?
催事は、どうしても主催者側の意向を汲まなくてはなりません。バイヤーさんからも売れ筋を求められる。本当に作りたいものが作れない環境に対して、強いストレスを感じるようになったんです。「私は今、やりたいことができていない。なぜ、こんなに我慢しなくてはならないのか」と、自問自答する日々が続き、あまりのストレスで目眩がしたり、目が見えなくなったりまでしたんです。「この環境から脱出するには、私が別格な存在になるしかない!」と、それまでのしがらみをすべて断ち切って、より一層、作品づくりに没頭しました。起きている時間はすべて制作のことを考えて……。でも自分を信じて、自分の好きなもの、作りたいものに命を注いでいたので、雑音は耳に入りませんでした。そうするうちに、私の作る作品や世界観を好きになってくれる人が増えてきたんです。
自分の持つエネルギーのすべてを作品に注ぎたい
編集部:1日のほとんどを制作に費やされているとのことですが、オフタイムには何をされているのですか?
仕事にすべてのエネルギーを使いたので、オフタイムはほんとポンコツなんです(笑)。仕事では言いたいことははっきり言いますが、オフでは自己主張しません。たとえばお店選びとかも人任せ。でも、任せたからには文句は言いません。何を食べても「おいしいね」って(笑)。ゆる~く生きています。
サーフィンは高校時代からずっと続けているので、時間をやりくりして海に出かけています。趣味のひとつに、デッドストック探しもあります。かつて人形に使われていて、今ではもう作られていない、国内外の昔の金具などのパーツや装飾品を集めているんです。昔の職人さんが作った物には、大量生産品では出せないニュアンスや雰囲気があってドキドキします。昔ながらの商店街の洋品店やパーツ屋さんを見つけると、必ず隅々まで探します。倉庫の中で眠っていたパーツに命を吹き込むことで、昔の技術の素晴らしさが甦ります。その良さを大勢の人たちに知ってほしいです。
編集部:昔ながらの工芸品がお好きだとか?
そうなんです、消え去りそうなアートや工芸品の発掘をしています。なかでも私が好きな工芸品は、水中花。江戸時代に生まれたかつての水中花は、通草木という木から作られた紙が用いられていたんです。でも、通草木の大半は台湾からの輸入だったので、台湾で天然記念物に指定されてからは輸入できなくなってしまったのです。日本に生育するものも、外来植物として駆除対象になってしまって……。何より、通草木から紙を作る職人さんがいなくなってしまったのが大きかった。だから現在、流通している水中花は、ほぼポリエステル製なんですよね。
でも私は、紙でしか出せない儚くも繊細な水中花の素晴らしさを知ってほしい、江戸時代から続く文化を埋没させてはならないと思って、日本中を調べました。人づてに、和歌山県にご両親が水中花の職人さんだった方がおられることを突き止めて、その方に会いにいったんです。山奥のけもの道を歩いて、やっとたどりついた家の蔵の中に、古い水中花が眠っていました。ねずみの大群と戦いながら譲っていただいた水中花は、私の宝物です。
生きていくためだけなら、選択肢は他にもある
編集部:エネルギー溢れるTomoさんにとって「情熱」とは何でしょうか? また、ご自身が「情熱」を傾けていることありますか?
自分の感じる“カワイイ”をカタチにすること、自分の“おもしろい”を探求することです。生きていくためだけなら、選択肢は他にもあります。でも、私は自分の好きなものをカタチにできる仕事を選んだ。これは最高に幸せな生き方だと思っています。だから魂を削って、作品と向き合っています。
モノづくりの素晴らしさを次世代に伝えることにも力を入れていて、子ども向けの様々なハンドクラフトのワークショップも開催しています。今の子どもたちはゲームに慣れて、上手くいかないと「リセットすればいいや」と、考えることが多いんです。なので、子供たちには一度始めたら、上手くいかなくても、とにかく最後までやらせて達成感を味わせるようにしています。私は、「話が出来るようになったら、一人前の人間だ」と思っているので、子どもでも手加減なし(笑)。子ども扱いしないことが、却って子どもたちに受け入れられるようです。ワークショップの費用は、私の交通費だけ。終わって、みんなでランチするのも楽しい時間です。私は今までいい加減に生きてきたから、これからはちょっと社会に役立つこともしたいなと思って、チャリティーイベントを開催して、売上を子ども食堂の運営に役立ててもらっています。
編集部: GWG読者にも自分の道を進む中で迷いを感じている人もいるはず。そんな方々の背中を押してくれませんか?
しらがみの中で、生きにくさを感じるときってあると思います。私もそうでしたが、それを打破するには、自分が居心地よく、楽しく過ごせる場所を作ることです。でも、それはただ待っていたり、誰かに用意してもらうものではダメだと思うんです。自分と向き合い、自分の好きなものや好きなことを見極め、その実現のために行動することが大切だと思います。なりたい自分になるには、どうすればいいのかを書き出してみるのもいいと思います。ピラミッドの頂上になりたい自分がいるとすると、自分は今ここだな、じゃ、次に行くには何をすればいいかと、段階を追って登っていけばいいんです。でも、無理は禁物。我慢しない! 遠慮しない! これ大事です。迷っているなら、まずは一歩。ほんとに一歩でいいんです。踏み出してしまえば、後は楽ですよ。
———— インタビュー前編はこちら ———
prankish/Tomoプロフィール
造形を中心として、誰もがときめくオトナメルヘン作品を様々な資材で制作するアーティスト。クライアントのオリジナル商品の原型製作や羊毛人形ワークショップ、様々なアーティストとのコラボ作品なども手掛ける。2011より毎年、個展を開催。2015年、Warner Bros.映画のキャラクターおよびグッズ原型の監修。2018年には、PEANUTSのキャラクター・コラボレーションを手掛け、おさるのピザトルとのコラボレーションなども展開中。
Instagram @queentommy